イソプレン単位の縮合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/11 08:33 UTC 版)
次段階として、IPPおよびDMAPPはプレニル基転移酵素(プレニルトランスフェラーゼ;IPPS)によってさまざまなテルペンの基本骨格に誘導される。まずジメチルアリルトランストランスフェラーゼ(GPPS)によってIPP がDMAPPに結合してC10ゲラニル二リン酸 (GPP) が合成される。GPPはモノテルペン生合成の出発物質となる。ファルネシル二リン酸合成酵素(ファルネシル二リン酸シンターゼ;FPPS)はGPPにIPPを結合させてC15ファルネシル二リン酸 (FPP) を合成する。FPPはセスキテルペン生合成に利用される。さらにFPPを出発物質としてIPPが逐次結合することで、より長鎖のイソプレノイドが合成される。このイソプレノイド鎖の延長は基質(FPP)の末端(tail)にIPPの先端(head)が結合する(head-to-tail condensation)。IPPSは生成するイソプレノイド鎖の長さに応じて短鎖IPPS(C25まで)と長鎖IPPS(C30以上)に分けられる。GPPSおよびFPPSはともに短鎖IPPSである。両者はアミノ酸配列が相同で、共通祖先から分岐したと推定される。両者はすべての生物の共通祖先(LUCA)の時代にはすでに分岐していたと考えられている。すなわち、何らかのイソプレノイドがLUCA以前から存在していた可能性が高く、イソプレノイドの起源は生物史の中で極めて古い。ただし、メバロン酸経路と非メバロン酸経路のどちらが先に存在していたかは結論が出ていない。 イソプレノイド鎖の延長にはいくつかの様式があり、関与する酵素も異なる。まずIPPSの基質(FPP)に対し結合するIPPの立体配置によって、IPPSはcis型とtrans型に分けることができる(イソプレノイド鎖の長さに関係なく)。関与するIPPSの種類に応じて合成されるイソプレノイドも異なる立体構造を有する。cis型IPPSとtrans型IPPSの間に進化上の繋がりはなく、それぞれ独立して進化したと考えれる。trans型IPPSは短鎖・長鎖どちらのイソプレノイド合成にも広く関与しており、一般にテルペンの生合成という場合、暗黙のうちにtrans型を指している場合が多い。一方、cis型IPPSは主に長鎖イソプレノイド合成にかかわるが、短鎖イソプレノイドを合成するものも見つかっている。cis型イソプレノイドにも重要な生理機能を有するものが含まれている(dolichol, bactoprenolなど)。 基質に対するIPPの立体配置以外に、結合する位置にも種類がある。最も広く分布しているイソプレノイド鎖延長反応は基質の末端とIPPの先端が結合するhead-to-tail condensationである。この反応を触媒するtrans型IPPSが上に記したように最も起源が古いと思われる。一方、基質の先端とIPPの先端が結合するhead-to-head condensation、さらにイソプレノイド鎖の中間に新たなIPPが結合して鎖が分岐するような結合を触媒するIPPSも一部の生物で見つかっている(head-to-middle condensation)。他にも例は少ないものの様々な結合様式が存在することがわかっている。ただし、head-to-tail condensation以外の結合様式は生化学的には興味深いものの、生物界における分布は多くの場合限定的である(以下に記述するスクアレン合成酵素など例外もある)。 スクアレン合成酵素(SQS)により2つのFPP分子の先端同士が結合(head-to-head condensation)するとC30スクアレンが生成する。スクアレン合成酵素はtrans型IPPSと進化上関連している(アミノ酸配列が相同)。スクアレンはホパノイドやステロール(コレステロールやフィトステロールなど)といったトリテルペンの出発物質となる。スクアレン合成酵素は真核生物ではsqs遺伝子、細菌ではsqsまたはhpnCDE遺伝子にコードされている。head-to-head condensationではtrans型の立体配置しか見つかっていない。一方、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素(CrtB)はFPPとIPPからジテルペンの基本骨格となるC20ゲラニルゲラニル二リン酸 (GGPP) を合成する。さらに、2つのGGPP分子が結合するとC40フィトエンが生成し、テトラテルペン(カロテノイド)の出発物質となる。GGPP分子の結合はFPP分子の結合と同様先端同士が結合する。実際、スクアレン合成酵素はフィトエン合成酵素から派生したと推測されている。
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