アメノミトリ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/16 08:54 UTC 版)
天御鳥命 | |
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全名 | 天御鳥命(アメノミトリノミコト) |
神格 | 鳥神、楯縫いの神 |
親 | 神魂命 |
兄弟姉妹 | |
神社 | なし |
記紀等 | 出雲国風土記 |
概要
『出雲国風土記』楯縫郡総記に登場し、親神にカムムスヒが伝わる[1]。他には見られないが、アメノヒナトリやヒコサシリ(彦狭知)と同一神とする説がある[2][3][4][5]。
記述
出雲国風土記
楯縫郡
楯縫と呼ぶようになった由来は、神魂命が「五十足(いそだる[注 1])天(あめ)の日栖宮(ひすみのみや)の縦と横の規模のように、千尋栲紲(ちひろたくなわ)で梁と桁を何度も繰り返し結び垂らし、この天の御量(みはかり)で所造天下大神の宮をご造営しなさい」と命じなさって、御子の天御鳥命を楯部に任じて、天の下へお送りになった。その際に天御鳥命が天から地上へ退きお降りになって、大神の宮への調度品である楯を製造し始めなさった所がこの地である。よって、現在に至るまで楯と桙を造り、尊い神たちに奉納している。ゆえに楯縫と言うようになった。[1][3][4][5][6]
考証
楯縫郡総記の本文は記紀の国譲り神話と類似した文章表現が複数見られ、特に『日本書紀』巻第二の第九段一書第二ではヒコサシリが作盾者(たてぬい)に任命されており[7]、『古語拾遺』では岩戸隠れ神話で同神が天御量(あまつみはかり)によって木を伐採し宮殿の造営及び笠・矛・盾を製作する役を与えられている[8]ことから、アメノミトリをヒコサシリの別名と見る説が唱えられている[2][3][4]。また『日本書紀』「出雲国造神賀詞」等に登場し、『古事記』ではアメノホヒの御子神で出雲国造の祖であるアメノヒナトリ[注 2]とも同一の神ではないかと考えられており[4][5]、本来の原文は「穂日命御子天御鳥命」であったが伝来過程で「穂日命」の字が脱落したとする説[9]や、系譜の相違から同じ神とまでは見なせないとしても、オオナモチに仕える神であるという共通点を持つため両者はそれぞれ異伝同士の関係に位置していると推測する説もある[6]。一方、ヒコサシリは紀伊国造の祖とされるため出雲と結びつけられる可能性が低く、アメノヒナトリとする説も恣意的な判断に拠っている点、さらに『出雲国風土記』では他書に見えない神が他にも数多く登場している点から、同一神が誰であるかにこだわって理解すべきではないとも指摘されている[9]。
『出雲国風土記』楯縫郡総記と『日本書紀』第九段一書第二は「アメノヒスミノミヤ」や「チヒロタクナワ」等、共通の語彙が用いられていることが知られており[5]、『出雲国風土記』が『日本書紀』における国譲り神話を元資料として使用しつつも、『古事記』での同神話やカムムスヒの指令神的な性格も取り入れながら当該条を記述していった背景が考察されている[6]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 中村 2015, pp. 170, 261.
- ^ a b 秋本 1958, p. 167.
- ^ a b c 加藤 1962, pp. 284–287.
- ^ a b c d 植垣 1997, pp. 198–199.
- ^ a b c d 島根県古代文化センター 2014, pp. 124–125.
- ^ a b c 松本 2007, pp. 191–197.
- ^ 坂本 & 家永 & 井上 & 大野 1994, pp. 140–141, 143.
- ^ 西宮 1985, pp. 19, 65–66.
- ^ a b 関 1997, pp. 6–7.
参考文献
- 秋本吉郎 校注『風土記』岩波書店〈日本古典文学大系 2〉、1958年4月5日。ISBN 4-00-060002-8。
- 植垣節也 校注・訳『風土記』小学館〈新編日本古典文学全集 5〉、1997年10月20日。 ISBN 4-09-658005-8。
- 加藤義成『出雲国風土記参究』(改訂増補新版)原書房、1962年11月20日。 NCID BN07209788。
- 坂本太郎、家永三郎、井上光貞、大野晋 校注『日本書紀』 (一)、岩波書店〈岩波文庫〉、1994年9月16日。 ISBN 4-00-300041-2。
- 島根県古代文化センター 編『解説 出雲国風土記』今井出版、2014年3月31日。 ISBN 978-4-906794-51-5。
- 関和彦「『出雲国風土記』註論(その二)楯縫郡条」『古代文化研究』第5号、島根県古代文化センター、1997年3月31日、 CRID 1524232504528977024、 ISSN 0919-6498。
- 中村啓信 監修・訳注『風土記 現代語訳付き』 上、KADOKAWA〈角川ソフィア文庫〉、2015年6月25日。 ISBN 978-4-04-400119-3。
- 西宮一民 校注『古語拾遺』岩波書店〈岩波文庫〉、1985年3月18日。 ISBN 4-00-300351-9。
- 松本直樹 注釈『出雲国風土記注釈』新典社〈新典社学術叢書 13〉、2007年11月。 ISBN 978-4-7879-1513-9。
関連項目
- タオキホオイ(手置帆負) - 『古語拾遺』でヒコサシリと同様に宮殿の造営と笠・矛・盾の製作を担った神。
外部リンク
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