錬金術 その他

錬金術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 02:34 UTC 版)

その他

錬金術とユング

心理学者カール・グスタフ・ユングは、錬金術に注目し、『心理学と錬金術』なる著書を書いた。その本の考察のすえにユングが得た構図は、錬金術(のみならずいっさいの神秘主義というもの)が、実は「対立しあうものの結合」をめざしていること、そこに登場する物質と物質の変化のすべてはほとんど心の変容のプロセスのアレゴリーであること、また、そこにはたいてい「アニマとアニムスの対比と統合」が暗示されているということである[64]

錬金術と文芸作品

神秘的、超自然的要素を含んだ錬金術は文芸術作品漫画小説)においても、特にスペキュレイティブ・フィクションというファンタジーサイエンス・フィクションなどのジャンルに大きな影響を与えた。神話伝説をベースとし、現実世界とは大きくかけ離れた世界観を持つファンタジー作品において、魔術と並ぶ空想の能力の一つとなった。また、通常の科学技術と並立し超科学的な分野として確立している例もあり、作品ごとに詳細かつ複雑に体系化されていった。さらにはアニメゲームなどの娯楽のメディアにも錬金術の要素を組み込んだり、題材とすることが多い。

現代の科学による金の生成

周期表上の金の位置

卑金属から貴金属を生成することは、原子物理学の進展によって、理論的には不可能ではないとまで言及できるようになった。

核分裂によるもの

錬金術の目的の一つである「金の生成」は、採算は合わないが現在では可能とされている[65]。金よりも原子番号が一つ大きい水銀の同位体196Hgに中性子線を照射すれば、原子核崩壊によって197Auに変わる[66][67]1924年9月20日に長岡半太郎がこの「核を攪乱」する方法による水銀還金の研究を発表した。

中性子星の合体によるもの

日本語の「錬金術」

「金」の字を「金銭」と解釈し、株式不動産投資などの利殖行為や、悪徳商法などを「錬金術」と例えることがある。


  1. ^ 『デジタル大辞泉』からの引用
    錬金術卑金属貴金属に変えようとする化学技術。 … 科学としては誤りであったが、多くの化学的知識が蓄積され、近代化学成立の基礎資料となった[3]


    『日本大百科全書(ニッポニカ)』からの引用

    錬金術 … もともと錬金術の本質は、思弁的、神秘的、宗教的な色彩と、実際的、技術的な色彩とが混ざり合って、広くヨーロッパに普及した(なお、東洋では古くから中国で長命薬の発見を意図した錬丹(れんたん)術が行われていた)。 …

     初期の錬金術思想には、プラトンアリストテレス新ピタゴラス派グノーシス派ストア哲学、宗教、占星術俗信などが入り混じっており、また象徴主義とか寓意(ぐうい)的表現による難解さもあった。しかしその一方で、錬金術の技術では … 実験用のさまざまな蒸留器昇華器、温浸器などが発明された。 … 12世紀までに化学薬品としては、新しく、ろ砂アンモニア鉱酸ホウ砂などを発見した … 。 …

     中世の人たちは、錬金術に潜む一種の神秘性や、卑金属を貴金属(金)にしたいという卑俗な物欲とも絡み合って、その魅力にひかれた … 。 … 17世紀のニュートンでさえ、錬金術に対して強い関心をもって真剣に考えていた … 。 …

     16世紀のいわゆる科学革命の時代になると、それまで根強く支持され続けてきた錬金術は、最盛期を過ぎて、思弁的・神秘的な色彩は消え始め、それにかわって新しい思想が注入され、化学という科学の新分野が芽生えてきた。 … 錬金術から化学へ移行する過渡期を象徴する最初の人物としては、オランダのファン・ヘルモントをあげることができる。

     錬金術は「にせ」科学であった。そしてこの「にせ」科学は、初めから相反する二つの触手をもっていた。一つは科学的真理に近づこうとする触手であり、もう一つは無意識にしろ詐欺(さぎ)と握手しようとする触手である。しかし人々は長い間、この2本の触手を区別することができなかった。錬金術の誕生と死滅は、人間の無知と欲望、またその克服の反映であった[2]
  2. ^ ここで言及している文献群は、厳密には、のちに Corpus Gabirianum (ジャービル文献, : Ğabir-schriften, : Corpus Jabirien)と呼ばれることになるラテン語のコーパス(これにはヨーロッパで書かれた偽書も含まれる)それ自体ではなく、その翻訳元になったアラビア語のコーパスであるが、ここでは出典の記載に沿ったものとした。
  3. ^ 当時は硫酸塩ということなど知る由もない。
  1. ^ a b EDP 2023b, p. 「錬金術」.
  2. ^ a b 平田 2021, p. 錬金術.
  3. ^ 松村 2021, p. 錬金術.
  4. ^ 米田 2022, p. 「ヘルメス・トリスメギストス」.
  5. ^ a b 澤井 2008, p. 23.
  6. ^ 1.2 古代ギリシャの原子論(2)解説:アリストテレス”. 理科ねっとわーく,国立教育政策研究所. 2020年2月2日閲覧。
  7. ^ クリエイティブ・スイート & 澤井 2008, p. 117
  8. ^ 吉村 2012, p. 46.
  9. ^ 3.2 ラボアジェの元素論 解説:ラボアジェの元素論”. 理科ねっとわーく,国立教育政策研究所. 2020年2月2日閲覧。
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  17. ^ ユタン 1972, p. 55.
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  61. ^ 伊藤建彦 (2002), 危機管理から企業防衛の時代へ: 渦巻くグローバリズムの奔流の中で, 文芸社, p. 251, ISBN 9784835540832 
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  63. ^ マイクロソフト (2009), “硫酸”, MSN エンカルタ百科事典 ダイジェスト, http://jp.encarta.msn.com/encyclopedia_761566936/content.html 2009年7月18日閲覧。 
  64. ^ 松岡正剛の書評より
  65. ^ Sherr, R.; Bainbridge, K. T.; Anderson, H. H. (1941), “Transmutation of Mercury by Fast Neutrons”, Physical Review (American Physical Society) 60 (7): 473-479, doi:10.1103/PhysRev.60.473 
  66. ^ 水銀から金を作る研究、クラウドファンディングで 財経新聞
  67. ^ 東京都市大学 水銀から金をつくる「原子炉錬金術」を実証する! 学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」





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