石英
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 17:26 UTC 版)
成分・種類
石英の非常に細かい結晶が緻密に固まっていて、直交ニコル顕微鏡下でのみ結晶粒が確認できるもの(潜晶質、隠微晶質)を玉髄(カルセドニー)という。不純物によっていろいろな色となり、紅玉髄(カーネリアン)、緑玉髄(クリソプレーズ)、瑪瑙(アゲート)、碧玉(ジャスパー)などと呼んで飾り石とする。
色つき水晶
水晶に不純物が混じり色のついたものを色つき水晶という。色つき水晶は準貴石として扱われる。
水晶の発色原因は、主に不純物の混入と放射線による結晶格子欠陥によるもので、主要構成元素によるものではない。紫水晶、黄水晶、煙水晶、黒水晶の発色原因はいずれも、不純物欠陥に電子(または正孔)が捕獲され特定のエネルギー準位をもつもの(色中心、カラーセンターという)で、紫水晶、黄水晶は鉄イオン、煙水晶、黒水晶はアルミニウムイオンが関連している。
- 紫水晶(amethyst、アメシスト)
- 紫水晶(むらさきすいしょう)は紫色に色づいた水晶。紫色の発色は、ケイ素を置換した微量の鉄イオンが放射線を受けると電子が飛ばされ電荷移動が酸素原子と鉄イオンとの間で起こり、三価の鉄イオンが四価の鉄イオンになり、これが形成した色中心(カラーセンター)が光のスペクトルの黄色を吸収するために、その補色である紫色が通過する様になるのが原因とされる[8]。最近の研究ではアルミニウムも関係しているとの説がある。尖っていて、細長く装飾品に使われる場合は研磨される場合が多い。加熱するとレモン色や黄色に変わりやすいが、稀にブラジル産の物で緑色になるものがありプラシオライトの名で呼ばれている。紫外線に曝露すると退色する(そのため、直射日光の当たる窓際に置くと次第に色が褪せてくる)。英語名 amethyst はギリシア語の amethustos(酔わせない)から派生した。アメシストを持つと酔いを防ぐはたらきがあると信じられていたことによる。
- 黄水晶(citrine、シトリン、もしくは、citrine quartz、シトリンクォーツ)
- 黄水晶(きすいしょう)は黄色に色づいた水晶[9]。黄色の発色は含水酸化鉄に基づく[9]。また、紫水晶が450~500℃で加熱されると鉄イオンが安定しようとして電子を取り込む電荷移動が酸素原子と鉄イオンとの間で起こり、四価から三価の鉄イオンになりこれにより色中心(カラーセンター)のエネルギー準位が変化して紫色に相当する光エネルギーを吸収しやすくなって、光があたったときにその補色である黄色が通過する様になるのが原因とされる[10][11][8]。天然の黄水晶の産出は少なく、市場に出回っている黄水晶のほとんどは紫水晶を熱処理して黄色にしたものである[9]。このような人工的に加熱処理された黄水晶の色は、オレンジがかった鮮やかな黄色をしており、天然の黄水晶は、やや茶色がかった地味な黄色でくすんだ色合いの物や淡い色合いの物が多い[12][6]。時には、煙水晶を加熱して出来るものもあるようで、これは加熱によってアルミニウムイオンの働きで見えていた茶色系の色は消えてしまうが、同時に鉄イオンが含まれていた場合に黄色に色づいて見えるようになるようである[13]。この場合は、やや緑がかった淡い黄色に変色する傾向がある[12]。またウラル産のシトリンの中には、アルミニウムやリチウムを含んだ無色の水晶にコバルト60のγ線をあてて黄色くしたものがあるといわれている[6]。これはγ線をあてることで、水晶内に色中心(カラーセンター)が形成されるのだという。マディラシトリンと称される深いオレンジの色相を彩るシトリンは、さらに希産[14]。また天然で鮮やかな黄色(カナリーイエロー)のカナリーシトリンと呼ばれるシトリンはごく稀にしか見られない[14]。
- 黄水晶の薄い黄色はトパーズに似るため、シトリン・トパーズとも言われ、安価なトパーズの代用品として使われる。また、トパーズと偽って売られる場合もある[9]。トパーズと共に11月の誕生石でもあり、石言葉は「社交性・人間関係・自信・生きる意欲」など。
- 鉄イオンによる色中心(カラーセンター)が原因ではなく、ヘマタイトやゲーサイト、微細な角閃石等が水晶の中に入り込むことによって黄色く見える水晶もある[15][要出典]。これらはシトリンとは発色原因が異なるためシトリンとは呼べず、区別するため黄色水晶(yellow quartz、イエロークォーツ)という呼び方で流通している[16][17][15]。
- 紅水晶(rose quartz、ローズクォーツ)
- 紅水晶(べにすいしょう)は薄いピンク色に色づいた水晶。ローズクォーツのピンク色は光に敏感で退色しやすい。この色は、不純物として混入している微量のチタン、鉄、マンガンに由来するとされる。近年のX線元素分析では、この色は光学顕微鏡で観察可能なレベルのデュモルチエライトの繊維によるという結果も出ている[6]。しかしながら、デュモルチエライトは単独の結晶としては滅多に産出しないもので、従って呈色はリン酸塩やアルミニウムによると考える意見もある。また、ローズクォーツは内部に微細な金紅石(ルチル)の針状結晶をインクルージョンとして持つ場合があり、スター効果を示すものもある[6]。産出のそのほとんどが塊状の紅石英であるが、稀に六角柱状の自形結晶の紅水晶で産出することがあり、その産地は世界でも数ヶ所でしか確認されていない。完全結晶化したものが少ないのは、四価のチタンイオンがケイ素と部分的に置換したことで、イオン半径の大きなチタンイオンが妨害して完全な結晶を形成することができないものと考えられている。また四価のチタンイオンは、青~緑色の光を吸収するため補色は薄い紅色になり、チタンの量が増えるほど赤みを増していくが結晶は更に不完全となる[18][13]。
- 煙水晶(smoky quartz、スモーキークォーツ)
- 煙水晶(けむりすいしょう)は茶色や黒っぽい煙がかったような灰色に色づいた水晶。発色する原因ははっきりとは分かっていないものの、ケイ素を置換した微量のアルミニウムイオンが特に多量の放射線を受けると三価のアルミニウムイオンが四価のアルミニウムイオンになり色中心(カラーセンター)となり、広範囲の波長の光を吸収するため灰色に見えるとされている[8][13]。長期間にわたる放射線の影響で、受けた放射線の量が多いほど光の吸収部が増えていくことで淡灰色→灰色→黒色と色が濃くなる。放射線照射をして色を付ける場合が多い。かつては、トパーズの一種と考えられ、スモーキー・トパーズという名称で呼ばれていたこともある。
- 黒水晶(morion、モーリオンないしはモリオン)
- 黒水晶(くろすいしょう)は不透明と言えるほどこげ茶から黒に色づいた水晶。色の濃い煙水晶との区別は、結晶構造が破壊されたもの、表面に透明感のないものなどと言われることもあるが、黒水晶と色が濃くなった煙水晶を区別する明確な定義は存在しない。アメシストに放射線照射をして色を付ける場合が多い。カンゴームという名で呼ばれることもある。
- レモン水晶
- レモン水晶(レモンすいしょう)は硫黄により黄色に色づいた水晶。結晶の間に硫黄が入ったために黄色(レモンイエロー)に色づいて見える。
- 緑水晶
- 緑水晶(みどりすいしょう)は微細な角閃石や緑泥石、フクサイト(クロム白雲母)等が水晶中に含まれ、全体が緑色を呈色して見える水晶。
- 稀にアメシストを加熱すると緑色になるものがあり、プラシオライト(グリーンアメシスト)の名で呼ばれるが、地熱によって加熱され、天然で緑色のものも希に産出する。この天然のプラシオライトは、アメリカのカリフォルニア州とネバダ州の境界付近やブラジルのパラー州のマラバ、ポーランドのドルヌィ・シロンスク県、カナダのオンタリオ州のサンダーベイ地区などで産出する。緑色の発色は、三価の鉄イオンの他に相当量の二価の鉄イオンを含んでいた場合に、三価の鉄イオンによる補色の黄色の発色と、二価の鉄イオンは黄色の光を吸収し補色は青色になるため、その黄色と青色が混ざって緑色に発色するといわれている[13]。
- 青水晶
- 青水晶(あおすいしょう)はインディゴライトやアエリナイト、クロシドライト、デュモルチェライト等が水晶の中に入り込むことによって青く見える水晶。
- 赤水晶
- 赤水晶(あかすいしょう)はヘマタイトやゲーサイト、レピドクロサイト等の酸化鉄の鉱物が水晶の中に入り込むことによって赤く見える水晶。鉄水晶(てつすいしょう)ともいう。また同じようにゲーサイトやレピドクロサイトの繊細な針状の結晶を水晶内に満遍なく含み、全体がオレンジ色や赤ピンク色、赤色に色づいているものはストロベリークォーツ(苺水晶 いちごずいしょう)という呼び名で流通している。
- リチウムクォーツ
- リチウムクォーツは、リチウムが水晶の中に包まれて、紫色~紫色っぽい半透明ピンク(セピアピンク)に見える水晶。セピアクォーツとも呼ばれる。
- ミルキークォーツ
- ミルキークォーツは結晶形成中に気体、液体、またはその両方の微細な流体包有物が、あるいは針状結晶のルチルが水晶中に閉じ込められ、白濁して見える水晶。その他、アルミニウム等の影響によるともいわれている。乳石英(にゅうせきえい)、乳白水晶(にゅうはくすいしょう)、スノークォーツなどとも呼ばれ、マダガスカル産のものはジラソルという名で呼ばれている。
また色つき水晶には、水晶の表面が他の鉱物でコーティングされていることによるものもあり、鉄分やマグネシウム等の薄い膜が表面をコーティングすることによって黄色く見えているもので、特にリモナイト等が付着してより鮮やかな黄色~金色になっているものはゴールデンヒーラー との呼び名で流通している。これ以外にも表面にヘマタイト等が付着して鮮やかなオレンジ色になっているものはタンジェリーナクォーツ(タンジェリンクォーツ)と呼ばれており、インドのマニカラン産の水晶には、土壌に含まれる赤褐色をした酸化鉄の影響によりその鉄分が表面に付着して、ピンク色になっているピンククォーツと呼ばれているものもある[19]。
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紫水晶(アメシスト)の群晶
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紫水晶(アメシスト)の群晶
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ステップカットされた紫水晶(アメシスト)
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宝石として研磨した紫水晶(アメシスト)
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黄水晶(シトリン)原石
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カットされた黄水晶(シトリン)
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紅水晶(ローズクォーツ)
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煙水晶(スモーキークォーツ)
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緑水晶(原石)
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ミルキークオーツ
変わり水晶
インクルージョン(内包物または包有物)を含んだり、結晶の形が変わって見えるものを変わり水晶という。変わり水晶はコレクターに人気がある。
大別して、水晶の抱有物によるものと、形態によるものがある。
抱有物によるもの
- 針入り水晶(ルチルクォーツ)
- 水晶の結晶中に金紅石(ルチル)の針状結晶がインクルージョンとしてあるもの。とても細い金色の針が入り込んだように見える。
- ススキ入り水晶
- 水晶の結晶中にトルマリンなどの柱状の鉱物がインクルージョンとしてあるもの。細い苦土電気石が入り込むとほのかに緑色にみえ、まさにススキのように見える。
- 草入り水晶
- 水晶の結晶中に緑泥石などの不定形な(あるいは草のように見える)鉱物がインクルージョンとしてあるもの。インクルージョンの形によって苔のように見えたり、毬藻のように見えたりする。インクルージョンが緑泥石のように緑色のものは、まさに草入りというにふさわしいものがある。ガーデンクォーツとも呼ばれる。
- 水入り水晶
- 水晶の結晶中に空洞があり、それが液体で満たされているもの。閉じ込められた液体は、水晶の成長当時の環境を保存していると考えられる。空洞中に液体と共に気泡が入っている場合があり、結晶を傾けると空洞中の壁に沿って気泡が移動するのを観察できることがある。
- 貫入水晶
- 水晶が別の水晶の中を取り込みながら成長したものである。水晶の中にそれよりも小さな水晶を確認できる[20]。
形態によるもの
- 山入り水晶
- 水晶の結晶成長中に成長条件が変化して一時期だけ有色の不純物やインクルージョンの混入があると、条件が切り替わる境界を目で確認することができ、水晶の中にもう一つの水晶が含まれるように見える。この、水晶内部に見える結晶の頭部を山にたとえて山入りと呼ぶ。ファントムクォーツ(幽霊水晶)とも呼ばれる。また、通常の山入り水晶の内包物は白色だが、緑色の場合もあり、こちらはグリーンファントムと呼ばれる。なお、中に含まれる結晶の頭部が1つではなく、複数の場合もあり珍重される。
- 松茸水晶
- 成因は山入り水晶とほぼ同じだが、先に晶出した水晶の先端に外側の結晶が大きく成長し、まるでキノコのような形になった水晶。
- 日本式双晶
- 日本式双晶 (Japanese-twin) は2個の結晶がξ面((1122) 面)を双晶面として84°33′の角度で接合した、多くハート形の双晶 (twin crystal)。双晶としては他にブラジル式、ドフィーネ式、エステレル式等各種が存在するが、その形態や名称からか日本式双晶の知名度が高い。
- 両錐水晶
- 結晶の両端の錐面ともに母岩に接さずに成長し、結晶成長が阻害されず模式の結晶形態に近い形態を表したもの。成因としては生育途中に母岩から脱落しそのまま成長した、等が考えられている。アメリカのニューヨーク州ハーキマー産のものが非常に有名。
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ルチルクォーツ
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松茸水晶
その他の名称
上記以外にも愛好家によりさまざまな名称が使われている。特に連晶は形状がユニークであることから珍重されており、形状によってエレスチャル・スケルタル(骸晶)・カセドラル・ジャカレーなどとさまざまな名称が使われるが、名称の分類は必ずしも愛好家の中で一致したものでない。
パワーストーン愛好家は石英をパワーストーンの中でも強力な鉱物として珍重しているため、それに関係した名称を使っている。細長く先細りの単結晶をレーザーと称してとりわけ大きな力があるとしたり、あるいは、バーコード状の成長線が浮き出たレーザー石英をレムリアンシードと称し、古代レムリア大陸の叡智を伝えるものだと主張している。
また、表面に金属を蒸着することにより人工的に着色した石英が製造され、オーラクリスタルなどとニューエイジ好みの名称で販売されている。色合いによりコスモオーラ・アクアオーラ・ゴールデンオーラ・オーロラオーラという名称も使われている。
- ^ 国立天文台編『理科年表 平成20年』丸善、2007年、646頁。ISBN 978-4-621-07902-7。
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- ^ Quartz (英語), WebMineral.com, 2011年12月13日閲覧。
- ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)「玻璃」の解説
- ^ 益富壽之助『石―昭和雲根志―』白川書院、1967年
- ^ a b c d e 堀秀道『堀秀道の水晶の本』草思社、2010年
- ^ “水晶の県山梨“のルーツを学術調査~山学大考古学研究会が乙女鉱山跡を現地調査~~近代産業遺産として保存活用を呼びかけ~ 山梨学院パブリシティセンター
- ^ a b c 『楽しい鉱物学』株式会社草思社、6月5日 1990。
- ^ a b c d ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社、2007年4月、221頁。
- ^ “シトリンとアメシストの違いは?”. 虚空座標 voidmark. 2023年2月2日閲覧。
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- ^ “イエロークォーツ(黄水晶)”. kiriri. 2023年2月2日閲覧。
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- ^ “KURO的石の雑学辞典 水晶用語辞典 表面の色による名前”. 虚空座標 voidmark. 2023年2月2日閲覧。
- ^ 水晶の意味・効果と種類一覧
- ^ 山花京子; 秋山泰伸「東海大学古代エジプト及び中近東コレクション所蔵の硫黄ビーズ製ネックレス復元研究」(PDF)『文明』第22巻、東海大学文明研究所、25-33頁、2018年3月31日。 NCID AN00222804 。2022年10月19日閲覧。
- ^ キャリー・ホール著『宝石の写真図鑑』日本ヴォーグ社、p81
- ^ 山梨県. “甲州水晶貴石細工・原石に生命を吹き込む”. やまなしの美技. 2024年2月6日閲覧。
石英と同じ種類の言葉
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