チベット 地理

チベット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/22 05:41 UTC 版)

地理

チベット高原
ヤムドク湖 チベット3大聖湖の一つ、標高は4,441 m、面積638 km2びわ湖の面積670 km2よりわずかに小さい

チベットは約250万km2で日本の約6.6倍の面積である。南からインド亜大陸アジア大陸に衝突し隆起してヒマラヤ山脈が誕生し、その北側にチベット高原が形成された。平均高度4,500 mのチベットにはその環境に適応した独特の魚類哺乳類が生息し、また多数の塩湖インドネパールからヒマラヤ山脈を越え飛来する渡り鳥の中継地となっている。

チベットはインダス川メコン川の源流域であるため、水は豊かで平野部では大麦を主とした農耕が行われ、草原地帯において牧畜が営まれている。その一方で、チベット南部に連なるヒマラヤ山脈の北斜面や四川盆地と隣接するチベット東端部などの地域を除けば、乾燥した気候のため山の斜面に樹木は乏しい。

チベットを領域内に入れている若しくは接する地域

中華人民共和国

インド

ネパール

ブータン

呼称

チベットの周辺諸国が古くから用いて来た呼称「tubat」(モンゴル語満州語[要出典])、「tbt」(アラビア語)等に由来し、チベット人自身は「プー (bod) 」(チベット語)と称する。日本語のチベットは英語「Tibet」経由で明治期に成立した呼称である。

チベット全域をさす漢字表記による総称としては、他に清代に通用した土伯特、唐古特とうことく(タングート)などがある。

チベット
旧チベット(黄色)と現在の地図
各種表記
繁体字 西藏
簡体字 西藏
ラテン字 Tibet
発音: チベット
広東語発音: 西藏
ウイグル語 شىزاڭ
チベット語 བོད་ལྗོངས།
モンゴル語 Төвд
日本語漢音読み 西蔵
日本語読み: チベット
韓国語 티베트
ベトナム語 Tây Tạng
英文 Tibet
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7世紀半ば、チベットの古代王朝が上記の領域を統合した(実質的なチベットの建国)時、当事の中国人()はこの国を「蕃」、「吐蕃」、「大蕃」等と呼んだ。この古代王朝は842年に崩壊したが、その後も中国の人々は、清朝の康煕年間(1720年代)ごろまで、この領域全体の地域呼称を吐蕃という呼称で総称し[1]、あるいはこの領域を統治する勢力を「吐蕃」と称した。

チベットの一部地域を示す「西蔵」という呼称は、中国大陸では1725年ごろから中央チベットとその周辺だけをさす地域呼称として使用されており、現在も中華人民共和国政府はアムドカムを含むチベット全域の総称としては使用していない。

清朝の雍正帝は1723-24年にグシ・ハン王朝1642年 - 1724年)を征服、彼らがチベット各地の諸侯や直轄地に有していた支配権をすべて接収し、タンラ山脈ディチュ河を結ぶ線より南側に位置する地域は、ガンデンポタンの統治下に所属させ、この線より北側の地域は、青海地方を設けて西寧に駐在する西寧弁事大臣に管轄させたほか、残る各地の諸侯は、隣接する陝西(のち分離して甘粛)、四川雲南などの「内地」の各省に分属させた。「西蔵」という地域呼称は、康煕時代から中国文献に登場しはじめていたが、これ以降、チベットのうちガンデンポタンの管轄下にある範囲が西蔵と称される[注釈 1]

清朝が滅亡すると、チベットはモンゴルと歩調をあわせて国際社会に「独立国家としての承認」を求めるとともに、チベットの全域をガンデンポタンのもとに統合すべく、中華民国との間で武力衝突もともなう抗争をおこなった。中華民国は、中国人が多く住む諸民族の雑居地帯河西回廊の南部と青海地方をあわせて青海省を樹立し、青海地方にも「内地」という位置づけを与えた。中華民国の歴代政権は、「西蔵」の部分のみを「Tibet(チベット)」とし、その他の各地は「内地」(=中国の本土)に属するとした。中華人民共和国も、「西蔵」の部分のみを「Tibet(チベット)」とし、その他の各地は「内地」(=中国の本土)に属するという中華民国の見方を踏襲、1960年に発足した「チベット自治区」は「西藏」部分のみを管轄領域としている。

日本では明治期から昭和中期にかけて、中華民国や中国国外の華僑などの間では近年、Tibetの訳語として「西蔵」を用いる例がある(→西蔵西蔵地方参照)。一方で、中国共産党に批判的な中国語話者の間では、「チベット」をそのまま音訳した「圖博」という表記も用いられている[2]

日本では、チベットを指す呼称として、明治期に英語「Tibet」に由来する「チベット」という呼称が一般的となった。ただし、漢字表記として「西蔵」が採用され、「西蔵」と漢字表記して、「チベット」と読み、または振り仮名を振る、という慣例が確立され、この形式が昭和中期ごろまで一般的となった。この表記法は次第にカタカナのみの「チベット」という表記に置き換わり、現在に至っている。

例えば、チベット研究学会「日本チベット学会」は、従来「日本西蔵学会」と漢字表記し、「にほんちべっとがっかい」と発音していたが、2007年11月総会において「日本チベット学会」への表記変更が提案され、翌2008年11月総会において正式に「日本チベット学会」という表記に変更された。ただし同学会の機関誌『日本西藏學會々報』のみ、「西蔵」という表記が維持されている。

中国では、チベット民族居住地域に対する通常の呼称としては「蔵区」、「蔵族地区」、「西蔵和其他蔵区」等の呼称が使用されているが、チベット全体を単一の自治行政単位とするよう求めるダライラマやチベット亡命政府の立場を非難、批判する場合には、「大チベット区」(「大西蔵区」、「大蔵区」etc)という用語が使用される。

歴史


注釈

  1. ^ 雍正のチベット分割を参照。
  2. ^ 中国では通常この範囲を「蔵区」、「蔵族地区」、「西蔵和其他蔵区」と呼ぶが、この範囲を単一の行政区画とするよう求めるチベット亡命政府やダライラマを批難、批判する場合には「大チベット区」という用語が用いられている。2-2節参照。[要文献特定詳細情報]
  3. ^ 1998年2月23日から27日にかけてマレーシアのクチンで開催された第4回会議。
  4. ^ 書類には輸送物が中国語で「川の沈泥」を意味する「ヘニ」と記載されていた。
  5. ^ 甘粛省投棄センターの容量は、当初、6万立方メートルだったが、20万立方メートルにまで拡張された。中国核国営公社のユー・ディリャンは甘粛省投棄センター建設費は100億元(12億5千万ドル)になると語っている。
  6. ^ ダプチ刑務所の北西3.5キロ、セラ僧院の西わずか1キロの位置にある[19]
  7. ^ 北緯37.26度 東経95.08度[20][21]
  8. ^ 北緯37.50度、東経95.18度[20]
  9. ^ ツァイダム南東217キロメートル、北緯36.6度、東経97.12度に位置する。
  10. ^ 2008年4月29日チベット亡命政府発表。死者数については、亡命政府の集計とともに、NGOのチベット人権民主化センターの発表(死者数114人)、中国国営メディア(死者数23人)、米政府系のラジオ・フリー・アジアの発表(死者数237人)などの5団体の内容を照合した[23]
  11. ^ en:Tom Lantos Human Rights Commission
  12. ^ 出演:ダドゥン、ジャンパ・ケルサン。公式サイト:映画『風の馬』
  13. ^ 原題は「Flucht über den Himalaya」(ドイツ語)、監督Maria Blumencron。

出典

  1. ^ 『元史』、『明史』、『庭聞録』など。詳細は準備中
  2. ^ 圖博(西藏) |台灣人權促進會 2020年5月14日閲覧。
  3. ^ ペマギャルポ「中国が隠し続けるチベットの真実」扶桑社,38頁
  4. ^ a b 多田等観『多田等観:チベット大蔵経にかけた生涯』春秋社、2005年8月、pp.217-355(多田明子・山口瑞鳳、2005、pp.233)
  5. ^ 『はかりきれない世界の単位』株式会社創元社、2017年6月20日、72頁。 
  6. ^ 2012 年「西藏自治区統計年鑑
  7. ^ 朝日新聞2008年3月14日
  8. ^ フランソワーズ・ポマレ「チベット」創元社、2003年、103頁
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  10. ^ ウィーン宣言及び行動計画、第1部第11項
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  12. ^ 1984年2月18日、「ワシントン・ポスト」
  13. ^ 1991年4月18日、新華社通信
  14. ^ インターナショナル・キャンペーン・フォア・チベット発「核とチベット」による[要文献特定詳細情報]
  15. ^ 1993年11月10日付のロイター通信
  16. ^ 1995年7月19日付の新華社通信
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  19. ^ チベットの核汚染-チベットの核兵器”. 2019年4月16日閲覧。
  20. ^ a b Da Qaidam - China Nuclear Forces”. GrobalSecurity.org. 2019年4月16日閲覧。
  21. ^ Xiao Qaidam - China Nuclear Forces”. Federation of American Scientists. 2019年4月16日閲覧。
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  23. ^ 朝日新聞2008年4月29日、小暮哲夫「チベット騒乱「死者203人」 亡命政府が発表」
  24. ^ CNN2008年3月16日記事
  25. ^ 産経新聞 2009年1月19日
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