旭川ラーメン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/26 22:08 UTC 版)
概要
札幌ラーメンの味噌ラーメン・函館ラーメンの塩ラーメンに対し、旭川ラーメンは醤油ラーメンと言われることが多く、それを裏付けるかのように、半数以上の店舗で醤油味が売れ筋という調査結果がある[1]。
スープの特徴
- Wスープ
- スープは魚介類と動物系(豚骨・鶏ガラ)を合わせてだしをとったWスープに醤油ダレを加えたものが主流で、65%以上のラーメン店がWスープを採用している[1]。一例を挙げると、あさひかわラーメン村で提供されているラーメンのうち、半数以上がWスープのラーメンを提供している[* 2]。
- Wスープが主流になった背景には、かつての旭川市では養豚業が盛んであった事が挙げられる。廃材の豚骨を活用する為に豚骨スープが考え出されたが、豚骨スープ特有の臭いを抑えて、更に風味を加えるために煮干や昆布などの魚介類を併用するようになったと言われている[2]。臭みをそのまま残した豚骨の白湯スープを軸に発展した博多ラーメンとは異なるスープになっている。
- また、旭川市は北海道の中心部にあり海とは無縁ではあるものの、古くから物流拠点として発展し流通網が発達していたため[3]、北海道各地で生産された多様な海産物を入手し易く、魚介類を昭和初期から容易に使用できたこともWスープが主流となった背景に挙げられる[4]。
- 豚骨スープに関してはアイヌ文化の影響を指摘する資料があり、アイヌの人々が昔から食べていた「ソップ」と呼ばれる白濁した豚骨スープの食文化が受け継がれていたという説もある[5]。ソップは博多ラーメンにも影響を与えたとも言われている[6]。
- ラード
- スープに多めのラードを入れることが旭川ラーメンの特徴の一つとして挙げられる。冬季に零下30度を下回る旭川市の厳しい気候を受けて、スープの上層に油膜の層を浮かべてスープ全体を覆うことで湯気があまり立たなくなり、スープを冷めにくくするためのアイディアがルーツであると言われている[2]。
- だし油・マー油・ねぎ油などの香味油や、苦味や香ばしさが際立つ焦がしラードを用いる店舗もある[7][8]。
- バリエーション
- 味噌ラーメンも人気が高い。スープは札幌ラーメンを旭川で受け入れられるよう試行錯誤された結果、濃厚でこってりしているものが多い[9]。辛味噌ラーメンを提供している店舗も多い[10]。
- 1988年にはらーめん山頭火が創業。山頭火のスープは博多ラーメンに近い白濁したもので、トッピングにキクラゲや小梅を使用するなど、昔ながらの旭川ラーメンとは大きく異なるものの、市民の間で人気となり[11]、のちに山頭火系と呼ばれるフォロワーも数多く現れ、現在では多様なラーメン店が出店するようになった。
麺の特徴
旭川ラーメンの麺の特徴を一言で言えば低加水縮れ中細麺である[1]。
中細の縮れ麺を使用している店舗が53.2%と最も多く、次いで中太の縮れ麺が28.6%。全体では9割を超える店舗が縮れ麺を使用していて、ストレートの麺はあまり見られない[1]。
加水率は25%~29%と低い[1]。加水が少ない縮れ麺は食感が硬めで歯切れが良く、小麦粉の香りが残り、茹であげた後もスープを吸収しやすい[12][13]。低加水率麺には、麺が伸びやすい欠点もある[14]。
自家製麺を行なっている店舗もあるが、旭川市の製麺所が製造する麺を使用する店舗が8割以上を占める[15]。
具の特徴
昔ながらの旭川ラーメンではねぎ・メンマ・チャーシューとシンプルであるが、近年は多様なラーメン店が出店しているため、その限りでは無い。また、旭川発祥の名物である塩ホルモンや豚トロがチャーシューの代わりに用いられることもある[11]。
観光客向けにホタテやコーンなどの北海道特産物や、バターなどの乳製品を加えたラーメンもある。
価格帯
上記のように、豚骨・鶏ガラ・魚介・野菜など多くの素材を用いたスープと、低加水麺を使用したラーメンが旭川ラーメンの特徴と言えるが、そのため原材料のコストは高めで、一杯あたりの価格帯は他地域と比較すると高めとなっている[16][17]。
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ラードの層が視認できる老舗(蜂屋)の醤油ラーメン
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近年創業した店舗の醤油ラーメン
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山頭火の塩ラーメン
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山頭火系の例
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山頭火系の例2
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味噌バターラーメン
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辛味噌ラーメン
歴史
戦前
旭川ラーメンの始まりには諸説ある。札幌ラーメンのルーツと言われている1922年(大正11年)創業の中華料理店「竹家食堂」が、1933年(昭和8年)に旭川で「芳蘭」と言う支店を出し中華麺文化が始まり、1936年(昭和10年)に、2015年まで営業を続けていた「八条はま長」と言う蕎麦屋で、ラーメンをメニューに掲載したと言う説も残されているが[13]、第二次世界大戦などの影響もあり、一旦姿を消す。
概して戦前の旭川ラーメンは、札幌ラーメンの亜流的な位置づけであったとされる。ラーメンは「東京ラーメン」のようにスッキリとしたものであった。
戦後
戦後は、地元で独自の工夫をしたラーメンが広がり始める。戦後間もない1947年(昭和22年)にラーメン専門店として創業し現在に至るまで続いている「蜂屋」と、同年に屋台から始めた「青葉」の2店のスタイルが旭川中に広がっていった[13]。この頃から既にWスープや低加水麺などの旭川ラーメンの特徴的な要素が形作られている。
次いで1950年(昭和25年)に「特一番」が、1952年(昭和27年)には「天金」が創業し、ラーメン文化が徐々に市内へ浸透して行き、現在まで続く旭川ラーメンの源流となった。特一番は、旭川ラーメンとしては初めてチェーン展開を行なったと言われており、最盛期には10店舗存在した。現在も旭川市内で5店舗が営業を続けている[18]。また特一番の暖簾分けに「新特一番」や「味特」などがあり、東京にもチェーン展開を行うなど、当時の繁盛振りを物語っている。
1960年代後半から70年代前半にかけて、札幌ラーメンの影響を受けて旭川で味噌ラーメンを取り扱い始めた「よし乃」を皮切りに[9]、正油ラーメン以外の味を主力にする店舗が現れるなど、以降各地のラーメンの影響を受けつつ成長してきた。
1996年(平成8年)にあさひかわラーメン村が誕生[2]。旭川市の商工部観光課もPRに力を入れ、観光の目玉としても親しまれるようになった[13]。2001年(平成13年)には旭川ラーメンを含む、北海道のラーメンが北海道遺産として認定された。
平成以降は蜂屋や青葉が新横浜ラーメン博物館に出店したり、旭川市外の店舗へ暖簾分けをしたり、日本国内のみならず国外まで展開するチェーン店が生まれるなど、北海道外でも旭川ラーメンの名が広まっている。
製麺会社との協力関係
旭川ラーメンでは製麺所の麺を使用することが多いが、これも昭和30年代の旭川ラーメン黎明期より、麺の卸からラーメン作りまでを製麺所が先頭に立って指導を行ってきた所以とも言える[13]。
ラーメン店と製麺所の結びつきを象徴するエピソードとして、蜂屋と同年に創業し旭川市内で大きなシェアを持つ製麺所「加藤ラーメン」の創業者である加藤熊彦は、蜂屋の創業者である加藤枝直の兄であり、共に蜂屋のラーメンを作り上げたことのみならず、創業間もない青葉に麺を提供するなど、旭川ラーメン全体に大きな影響を与えたことも挙げられる[19]。
現在では8割以上の店舗が製麺会社から麺を仕入れており、旭川市内に存在する製麺会社上位5社でシェアの74.4%を占めている[15]
注釈
- ^ 郷土ラーメンMAPより、26地域のご当地ラーメンにおける人口比ラーメン店舗数を計算。人口10万人以下の地域では比率が高く、大都市では比率が低くなる傾向はあるが、道内では釧路の1924人、札幌の2596人、函館の1830人と比べ、旭川では1580人に1店舗と一番多く、人口10万人以上の都市では佐野ラーメン(830人に1店舗)に次ぎ2番目に多い。ほぼ同人口の和歌山と比べ2.8倍、宮崎と比べても1.5倍ほど多い。
- ^ ラーメン村に出店している8店舗のうち、公式ウェブサイトが存在する[1][2][3][4]4店舗に加え、店舗の公式サイトは存在しないものの、ラーメン村の公式ウェブサイト上に掲載された[5][6]2店舗で、Wスープについて言及している。
- ^ 例として、本項で取り上げたインターネット上でメニューが閲覧出来る店舗で、あさひかわラーメン村に出店している8店舗と、老舗の蜂屋、特一番の2店舗を加えた合計10店舗では、[7][8][9][10][11][12][13]の7店舗において野菜ラーメンの表記が確認出来るのに対し、日本各地の公式サイトでメニューが閲覧可能な他のラーメンテーマパーク札幌ら〜めん共和国品達新横浜ラーメン博物館ラーメンスクエア京都拉麺小路ラーメンスタジアムに出店されている全ての店舗では、札幌ら~めん共和国に出店している旭川発の梅光軒[14]でしか見られず、特異性が認められる。
- ^ “メニュー”. らーめん橙や. 2019年4月28日閲覧。野菜ラーメンがメニューに存在するラーメン店における野菜ラーメンとねぎラーメンとの違いが掲載されている一例
- ^ [15][16]などを参照。旭川ラーメン全店舗の1割以上になる20店舗以上でメニューに加わっており、その全ての店舗で定食も扱っているのが確認出来る。
出典
- ^ a b c d e 旭川市立大学経済学部江口ゼミナール『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.117
- ^ a b c “「旭川ラーメン」北国ラーメンものがたり”. 北海道人、NPO法人HEART. 2019年4月28日閲覧。
- ^ “マイタウンあさひかわ 2012/12/23放送 集まる!広がる!新鮮!海の幸”. 北海道放送、旭川市(広報番組). 2019年4月28日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.116
- ^ “北海道のラーメンについて”. 札幌エスタ. 2019年4月28日閲覧。
- ^ “博多ラーメン - 全国ご当地ラーメン”. 新横浜ラーメン博物館. 2019年4月28日閲覧。
- ^ “北海道4大ラーメン、旭川ラーメンのはずせない店を紹介!”. KADOKAWA、ウォーカープラス. 2019年4月28日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.7、p.40-41
- ^ a b “「旭川ラーメンみそ味・よし乃」北国ラーメンものがたり”. 北海道人、NPO法人HEART. 2019年4月28日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.70-81
- ^ a b おしながき│らーめん山頭火によるキクラゲや小梅の使用など
- ^ “加水率とは”. 早川製麺. 2019年4月27日閲覧。
- ^ a b c d e “旭川ラーメン - 全国ご当地ラーメン”. 新横浜ラーメン博物館. 2019年4月28日閲覧。
- ^ “低加水麺(ていかすいめん)とは”. 朝日新聞社、コトバンク、講談社『和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典』. 2019年4月27日閲覧。
- ^ a b 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.118
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.123、125
- ^ “小売物価統計調査年報 平成26年”. 総務省統計局. 2019年4月28日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.8
- ^ 北海道人・北国ラーメンものがたり蜂屋の歴史加藤ラーメン歴代家系図を参考にまとめた
- ^ “北海道絶品ホルモンラーメン&埼玉知られざる銘菓【秘密のケンミンSHOW極公式”. 日本テレビ放送網. 2023年8月12日閲覧。
- ^ ホルモンとラーメンが組合わさったモルメン -旭川のひまわり本店-
- ^ モルメン ひまわり公式サイト
- ^ マイタウンあさひかわ「私のイチ押し!旭川ラーメン」2022年3月27日放送 - HBC 公式YouTube・2022年3月27日
- ^ 旭川しょうゆホルメン公式FBより
- ^ 旭川しょうゆホルメンとは
- ^ “お問い合わせ”. 旭川しょうゆホルメン倶楽部事務局. 2016年8月25日閲覧。
- ^ “【北海道】「北海道味紀行第3弾~宗谷・上川・留萌地域編~」開催”. 株式会社ローソン. 2019年4月28日閲覧。
- ^ お品書き|らーめんや天金メニュー:らーめん橙やモルメン ひまわり公式サイト等で、画像付きで確認出来る。
- ^ “お品書き”. らーめんや天金. 2019年4月28日閲覧。“メニュー”. 工房 加藤らーめん. 2019年4月28日閲覧。店舗の公式サイト上でメニューが掲載されている一例
- ^ [17][18][19][20][21]現存5店舗のメニューより
- ^ 新横浜ラーメン博物館:地域別郷土ラーメン 旭川ラーメン蜂屋Archived 2018年05月25日, at the Wayback Machine.
- ^ “あの素晴らしい味をもう一度 “古~いにしえ~”再復刻”. ライナーネットワーク. 2020年10月5日閲覧。
- ^ “旭川ラーメンの創成期を支えた老舗・蜂屋”. ジェイトリップ. 2020年10月5日閲覧。
- ^ a b c “旭川ラーメングランプリ2021結果発表”. ライナーネットワーク (2021年1月26日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ “創業からダブルスープ一筋の正統派「旭川らぅめん 青葉 本店」”. KADOKAWA、ウォーカープラス. 2019年4月28日閲覧。
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- ^ a b c “旭川ラーメングランプリ2022結果発表”. ライナーネットワーク (2022年1月28日). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.44
- ^ “ニンニクが効いた醬油ラーメン -旭川のつるや-”. Good! Hokkaido!. 2018年5月25日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.58
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.69
- ^ “独断と偏見!個人的に大好きな【しおラーメン】のお店Best5!”. asatan (2020年6月6日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ “旭川でいちばん好きなラーメン教えて【しお部門】”. ライナーネットワーク (2021年1月19日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.83
- ^ 『今日も旭ラーあなたの食べたいラーメンがここにある』p.11
- ^ 旭川ラーメン 旭川熊系「熊ッ子チェーン」「こぐまグループ」の研究(第1回) - 旭川ラーメンブログ・2022年4月7日
- ^ 旭川ラーメン 旭川熊系「熊ッ子チェーン」「こぐまグループ」の研究(第3回) - 旭川ラーメンブログ・2022年2月23日
- ^ “会社案内”. 株式会社加藤ラーメン. 2020年10月8日閲覧。
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- ^ “会社概要”. 株式会社 寿 須藤製麺工場. 2020年10月8日閲覧。
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- ^ “会社情報”. 藤原製麺株式会社. 2020年10月8日閲覧。
- ^ “かみかわ「食べものがたり」:藤原製麺「北海道ラーメン」”. 上川総合振興局商工労働観光課. 2020年10月8日閲覧。
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- 2 旭川ラーメンの概要
- 3 文化、風習
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