和服
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/15 05:05 UTC 版)
和裁(和服裁縫)
和裁とは、和服裁縫の略語であり、和服を制作することやその技術のことである。「和服の仕立て」ともいう。詳しくは、和裁を参照。
衣服の様式を表す言葉
和服の特徴を表す言葉を中心に、衣服の様式を表す言葉をここに集めた。
袖
- 広袖(ひろそで)
- 大袖(おおそで)ともいう。広い袖口。
- 小袖(こそで)
- 小さい袖口。または、小さい袖口がある服。
- 小袖は現代の長着の元となった和服といわれている。
- 平安時代後期に公家は、袖口が大きい服を大袖と呼び、大袖に対して袖口が小さい服を小袖と呼んでいた。大袖と小袖は、袖の面積ではなく、袖口が大きいか小さいかを表わす言葉である。
- 平安時代の後期から、公家が肌着として着ていた小袖に華やかな色を付けるようになったといわれる。肌着なのに華やかにした経緯はよく分かっていないが、襟と首の間から肌着が少し見えるからという説がある。武士や庶民が既に着用していた服は、公家が肌着として着ていた小袖と形が似ていたらしく、武士や庶民は既に自分達が着ていた服を「小袖」と呼ぶようになっていったと推測されている。
- 現在確認できる書物の中で、「小袖」という言葉が日本で最初に現れたのは、10世紀に源高明が書いた『西宮記』だといわれる。しかし、『西宮記』の小袖は、公家が肌着として着用した小袖とは別の物だといわれる。
- 平安時代の公家の肌着としての小袖に関して、次のことがいわれている。
- 「小袖」という言葉が発生した時期は、少なくとも平安時代の後期からであるといわれているが、それ以前からという可能性もある。
- 小袖は、袖口が小さい袖が付いた、上半身を包む服。円筒状の袖が腕を包む、筒袖といわれる袖だった。
- 公家が肌着として着た服と、盤領(あげくび)の服の2種類の服のどちらも、公家は「小袖」と呼んでいたのではないかといわれている。
- 「小袖」は、まず公家が使い始めた言葉だった。当初は、公家以外の人にとって「小袖」という呼び方は一般的ではなかった。
- 半袖(はんそで)
- 腕の手首に近い部分が包まれない袖。
- 筒袖(つつそで)
- 円筒状の袖で、腕と袖の布の間にあまり空間がない袖。洋服においても、同様の袖を筒袖と呼んでいる。現代の和服の多くは筒袖ではないが、作業着や普段着の和服には筒袖がみられる。
- 元禄袖(げんろくそで)
- 袖丈は子供物で30から40cm、大人物で42cmから45cmで、袂の輪郭が丸みが大きく作られている袖。丸みは老若での加減はあるが8cmから15cm程度。元禄時代の小袖が始まりのため、この名が付けられている[38]。昭和の内1945年頃まで、布の資源を節約する目的で、和服の袖丈が短い袖(25cmから30cm)が「元禄袖」と称されて宣伝された。これは、元禄時代を再現する目的ではなかったので、昭和の元禄袖と元禄時代の元禄袖は別のものである。昭和の時代に、筒袖の洋服を元禄袖に作り替えることはなかった。[要出典]
- 角袖(かくそで)
- 角に丸みを付けない四角い袖。
- 広い肩幅と狭い袖幅
- 室町時代後期から江戸時代初期にかけて、裕福な庶民の間に、少し変わった形状の袖を持つ絹の和服が流行した。当時それは「小袖」と呼ばれたものの、平安時代の小袖とも現在の小袖とも違う特徴を持つ。その袖は、袖幅が短く(肩幅の約半分)、袖口が小さく、袖の下の輪郭が大きく膨らんで緩やかなカーブを描いている。半袖ではない。これは現在の寸法と違い当時の着物の前幅・後幅などが現在よりもかなり大きくたっぷりしているため、相対的に袖の寸法(袖幅)が短くなってしまっているのである。現在、この服を「初期小袖」と呼ぶのが間違いなのは、平安時代に既に「小袖」が登場していたからである。しかし現在、この服を「初期小袖」と呼んで解説している書物がある。
- 肩衣(かたぎぬ)
- 袖のない身頃だけの衣服。
- キモノ・スリーブ
- 英語で "Kimono Sleeves" という、洋服の袖の様式を指す言葉がある。 直訳すると「着物の袖」だが、これは和服の袖を指す言葉ではなく、身頃と袖とを一枚截ちで仕立てた袖のことである。
襟
- 盤領(あげくび・ばんりょう・まるえり)
- 首の周りが丸い円周の形をした襟で、左の襟を右の肩の近くに固定させて着る。
- 方領(ほうりょう)
- 角襟(かくえり)ともいう。上前と下前の縁に沿って縫い付けられている襟。
- 垂領(たりくび)
- 方領の服を、上前と下前を重ね合わせる着用の方法。または、盤領の服を、首の前が露出するように、工夫して着用する方法。
- 開襟(かいきん)
- 外側に向けて一回折った襟。現代の和服に開襟はないが、室町時代の末期と桃山時代の道服(どうふく)と、平安時代の唐衣(からぎぬ)は開襟である。
丈
- 対丈(ついたけ)
- おはしょりを作らない状態で、身体の肩から足首の辺りまでの長さの丈の着物。現代の対丈の和服には、襦袢や男性の長着がある。
- お引き摺り(おひきずり)
- 床の上を引きずる長さの丈の着物。現代の和服では、花嫁衣装や花柳界の衣装に見られる。
仕立て方
現在も和服が主流の分野
職業・役割により現在も和服の着用が強く求められる場合がある。次に挙げる場合は、職業・宗教により、正装または普段着として和服を着用することが主流となっている。
- 日本の仏教僧
- 神官・巫女など神道の聖職者
- 巫女装束
- 能楽・歌舞伎・日本舞踊・講談・落語・雅楽・茶道・華道・詩吟等伝統芸能の従事者
- 芸者と舞妓
- 相撲の取り組みの行司・呼び出し・審判員(勝負審判)
- 力士
- 仲居(仲居は日本旅館・温泉旅館・日本料理店などで料理を運ぶなどの接客サービスを行う職業である)
- 将棋棋士(タイトル戦他重要な対局の際)
- 競技かるた(主に名人位、クイーン位決定戦の際)
次に挙げるスポーツでは、選手は専用の和服や道着を着用する。道着も前を合わせて帯を締めるという構造上、また種目によっては(剣道・弓道など)袴を着用することから、和服の一種であるといえる。これらの衣服は、剣道・弓道具店、スポーツ用品店で販売されている。
注釈
出典
- ^ 小池三枝『服飾の表情』勁草書房、1991年、52頁。ISBN 4-326-85118-X。
- ^ マーク・ピーターセン『続 日本人の英語』〈岩波新書〉1990年、28頁。ISBN 978-4004301394。
- ^ a b “デジタル大辞泉”. 2018年9月26日閲覧。
- ^ a b “日本大百科全書(ニッポニカ)”. 2018年9月26日閲覧。
- ^ “世説故事苑(1716)”. 2018年9月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『日本大百科全書』(ニッポニカ)「服装」の記事の「服装の役割と発生について」の節。石山彰 執筆。
- ^ a b 徳井淑子『図説 ヨーロッパ服飾史』河出書房新社、2010年、4頁
- ^ 『図説日本庶民生活史1』 河合書房新社 1961年 p137-140
- ^ a b c d e 『小袖・小袖解説』 三一書房 1963年 p1-2
- ^ a b 『図説日本庶民生活史2』 河合書房新社 1961年 p130
- ^ a b 『図説日本庶民生活史2』 河合書房新社 1961年 p132
- ^ 『図説日本庶民生活史3』 河合書房新社 1961年 p124
- ^ “精選版 日本国語大辞典”. 2019年9月21日閲覧。
- ^ 『日本の美術341号町人の服飾』 至文堂 1994年 p28-29
- ^ 『服装の歴史2』 理論社 1956年 p28-29
- ^ 橋本 2005, p. 66.
- ^ 橋本 2005, p. 69.
- ^ “歸去來兮 紐約複賽漢服飄逸宛如夢” (中国語) (2009年9月11日). 2017年12月5日閲覧。
- ^ “漢服のはなし”. 中国文化センター東京. 2017年12月6日閲覧。
- ^ “着物の歴史を簡単な年表に整理!庶民にはいつから?歴史を学ぶおすすめの本も紹介!”. 2022年1月4日閲覧。
- ^ “豆知識:着物の始まりと現代の着物”. 2022年1月4日閲覧。
- ^ “きものの歴史”. 2022年1月4日閲覧。
- ^ 増田美子『日本衣服史』吉川弘文館、2010年、147-148頁。
- ^ 深川江戸資料館
- ^ a b 彬子女王 2018, p. 11.
- ^ a b 小泉和子編『昭和のキモノ』河出書房新社〈らんぷの本〉、2006年5月30日。ISBN 9784309727523。
- ^ 彬子女王 2018, p. 18.
- ^ 彬子女王 2018, p. 18-19.
- ^ 「はれのひ」の教訓生きるか/着物業界、改革待ったなし◆レンタルなど競合増◆変わらぬ古い商習慣『日経MJ』2018年2月26日(大型小売り・ファッション面)
- ^ 【クローズアップ】サービス産業“生産性革命”日本経済全体底上げ『日刊工業新聞』2018年3月12日
- ^ 【ひと ゆめ みらい】デニムで着物を身近に/呉服店「田巻屋」社長・田巻雄太郎さん(45)=江東区『東京新聞』朝刊2018年4月23日(都心面)
- ^ 着物、気軽に着こなし/やまと、若者向けに洋服感覚/伸縮性や撥水性高める『日経MJ』2017年10月11日(大型小売り・ファッション面)
- ^ “海外縫製について ”. 株式会社プルミエール. 2020年11月24日閲覧。
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- ^ 『中日新聞』2019年3月8日、朝刊27面
- ^ 田中敦子 編『主婦の友90年の智恵 きものの花咲くころ』主婦の友社 監修、主婦の友社、2006年、146頁。
- ^ 男と女の婚礼衣裳の歴史と変遷を見る, BP net.
- ^ デジタル大辞泉、日本大百科全書. “元禄袖”. コトバンク. 2019年4月14日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “「和裁士」目指す専門学校の生徒たちが“針供養” 山形|NHK 山形県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2024年2月23日閲覧。
- ^ きもの語辞典:着物にまつわる言葉を イラストと豆知識で小粋に読み解く 著者: 岡田知子、 木下着物研究所 p.91
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