七項目の確認事項 七項目の確認事項の概要

七項目の確認事項

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/08 06:05 UTC 版)

2002年平成14年)に、同和対策事業日本国政府による事業が終了し、2003年(平成15年)頃のインタビューで元法務大臣前田勲男は「(課税上の同和減免は)近年はなくなったはず」と発言したが、2010年(平成22年)に同和減免を利用した脱税の指南で逮捕起訴された元小倉税務署長は「7項目の確認事項は前任者から引き継ぎをうけ、私も後任に引き継いだ」、「同和特別控除は、国の法失効後も、部落解放同盟の強い要望で、水面下で慣行化」している、と公判廷で証言した(後述)。

概要

大阪国税局が入居する大阪合同庁舎第3号館

1968年(昭和43年)1月30日、部落解放同盟大阪府連合会の代表者100人余は、大阪国税局別館にて大阪国税局長以下45名と交渉を行い、国税局から

#国税局として「同和」対策を打ち出す。
  1. 租税特別措置の中に「同和」対策を折り込むために努力する、それまでそれにかわるべき措置として、局長権限による内部通達の形で処理する。
  2. 部落解放同盟の指導で企業連を窓口として出された白色申告および青色申告については、全面的にこれを認める、ただし内部調査の必要ある場合は同盟を通じ、同盟と協力してこれを行なう。
  3. 「同和」事業については課税の対象としない。

との回答を得た[1]。七項目の確認事項の内容は、『解放新聞』大阪版1969年2月15日付によると以下の通りである。

四三年一月三〇日、大阪国税局長(高木前局長)と大阪企業連との間にかわされた確認事項は、次の七項目である。
  1. 国税局として同和対策特別措置法の立法化に努める。
  2. 租税特別措置の中に、同和対策控除の必要性を認め法制化をはかる。それ迄の措置として局長権限による内部通達によってこれを処理する。
  3. 企業連が指導し、企業連を窓口として提出される確定申告については(青白を問わず)全面的にこれを認める。
  4. 同和事業については課税対象としない。
  5. 国税局に同対部を設置する。
  6. 国税部内において全職員に同和問題の研修を行う。この際企業連本部と府同対室と相談してこれを行う。
  7. 協議団の決定も、局長権限で変更することが出来る。

これらの確認事項は、部落解放同盟や大企連を経由して出される税務申告をフリーパスで認めるものとなっており[2]、部落解放同盟傘下企業の脱税の温床となった[3]

1969年1月には、大阪国税局長と部落解放同盟近畿ブロックとの間で、この大阪方式を他の府県にも適用するとの確認がおこなわれた[4]

1970年2月には、国税庁長官が「同和問題について」と題する通達を出し、全国の税務署に「同和地区納税者に対して実情に即した課税」をおこなうよう指示。これにより七項目確認は国税庁の公認のもと全国に拡大した。

1971年12月、部落解放同盟関東ブロックと東京都同和企業連合会(略称は東企連)が東京国税局との間に七項目確認と同様の取決めをおこなった。

以後、この七項目確認は同和対策事業特別措置法の一応の失効(1979年)を目前にした1978年11月、大企連と大阪国税局長篠田信義(当時)との間で「新七項目の約束事項」として更新され、ほぼ現在まで機能し続けている。このときの「新七項目の約束事項」の内容は次の通りである。

#国税局として同和対策審議会答申を尊重し同和対策基本法の立法化に努める。
  1. 租税特別措置法の中に同和対策控除の必要性を認め、それまでの措置として局長権限に依る内部通達によってこれに当る。
  2. 企業連が指導し、企業連を窓口として提出される青、白、自主申告について全面的にこれを認める。調査の必要がある場合には企業連を通じ、企業連と協力して調査をする。
  3. 同和対策事業に対しては課税対象としない。
  4. 国税局同対室を更に充実強化する。各署の同和対策の窓口は総務課長とする。
  5. 国税局に於て同和問題研修会を行ふこと、この際府同対室、企業連と相談して行ふ。
  6. 悪質な差別事件の増発状況に鑑み、国民の理解を深めるため、その啓発活動の増進に努める。

国会

国税庁の答弁は次の通りである。 議事録

脱税の温床

現職税務署員の証言によると、税務申告の際に大企連を窓口にすれば1000万円の所得が300万円から400万円に、2000万円の所得が500万円から600万円に圧縮され、所得の3分の2が「減免」された[5]。このような例は大阪だけで数千件あったという[5]。この結果、被差別部落と無関係な企業までが大企連に群がり、部落解放同盟の顔役に数百万円の裏金を密かに包んで大企連に入れてもらうようになった[6]。1997年の調査によると、こうした部落外企業は、大企連の支部組織である飛鳥地区企業者組合の中で28.9パーセントを占めていた[7]。関係者によると、中には暴力団のフロント企業や企業舎弟も加盟していたという[6]

税務当局は、「同和減免」フリーパスを承認しているだけではなく、企業連加盟業者については、たとえ脱税行為があったとしても追及せず、最初から差し押さえ処分を放棄している[8]。その根拠は、大阪国税局が管内税務署の管理・徴収部門の統括官(課長級以上)の幹部に出した「同和速報」第55号(1976年4月6日付)、表題「企連加入業者に対する更正(決定)に係わる管理・徴収部門における事務処理について」である[8]

通常、収入の不正申告や無申告を発見した場合、税務署は税金の更正・決定処分をおこない、納税者に通知し、そこで納税者が徴税に応じなければ督促状を出し、それでも納めなければ財産の差し押さえ処分をおこなうことになる[8]

しかし「同和速報」第55号によると、「更正(決定)通知書を企連事務局経由で送達してきたもの」については「督促保留期限」を「70・12・31」(昭和70年12月31日)とコンピュータに入力するよう指示している[8]。すなわち、徴収の時効である5年間を遥かに超える20年間もの長きにわたり「保留」とし、最初から差し押さえを放棄している[8]。また滞納については「別途連絡する」まで「一切整理を行わない」とし、大阪国税局「特別整理部門」が取り扱う1000万円以上の大口納税者についても、各税務署は大阪国税局に報告しないでよいと通達し、脱税を見逃す趣旨となっている[8]。さらに企業連加入業者に対する徴収・滞納処分などの関係書類はすべて「署長室に保管」して一般納税者と区別し、「定期異動の際には的確に事務引き継ぎを行い無用のトラブルが生じないよう注意する」と、極秘扱いにしている[8]

この文書が「同和速報」第55号(関係統括者まで開示)となっていることからして、税務処理について一般署員の窺い知れない極秘扱いが他にも多数あると考えられている[8]

部落解放同盟に対するこのような優遇措置は、上田卓三(部落解放同盟大阪府連委員長、社会党衆院議員)が一般の中小企業を対象に1973年に結成した「大阪府中小企業連合会」(中企連)にも適用されていた[8]。たとえば1985年5月10日付の大阪国税局資産税課長補佐名で各統括官あてに出された「特定譲渡事案の提出について」には、この提出書類は「大企連・中企連を除く」とされており、中企連が企業連(大企連)と同じ優遇措置を受けていたことを示している[8]


  1. ^ 『解放新聞』1968年2月5日
  2. ^ 寺園敦史『だれも書かなかった「部落」』p.124(かもがわ出版1997年
  3. ^ 寺園敦史『だれも書かなかった「部落」』p.125(かもがわ出版1997年
  4. ^ 解放新聞』大阪版1969年2月15日
  5. ^ a b c d 比良次郎著・税務署オンブズマン編『税務署をマルサせよ』(GU企画出版部、1991年)
  6. ^ a b 角岡伸彦『ピストルと荊冠』p.92(講談社、2012年)
  7. ^ 『同和地区企業実態調査報告書』(大阪同和産業振興会、1998年)
  8. ^ a b c d e f g h i j 中原京三『追跡・えせ同和行為』p.146-149(部落問題研究所、1988年)
  9. ^ 「特定の団体との間の確認事項といったものは存在しない」(1996年7月1日付、国税庁長官から国税局長に宛てた文書)
  10. ^ 「『確認書』なるものが、あたかも存在するかのように吹聴されたり、一人歩きしていることについては、たいへん遺憾なことであり、残念でなりません」(1996年4月17日付、部落解放同盟中央本部委員長上杉佐一郎から都府県連委員長に宛てた文書)。なお、寺園敦史『だれも書かなかった「部落」』p.131(かもがわ出版1997年)によると、この上杉の発言は1996年4月に行われた与党三党の「人権と差別問題に関するプロジェクトチーム」の会合にて「同和脱税」が問題になったことを受け、批判をかわす目的でおこなわれたものであるという。
  11. ^ 熊代昭彦『同和問題解決への展望』(中央法規出版1988年
  12. ^ 溝口敦『食肉の帝王』p.44(講談社2003年
  13. ^ a b c d 植山光朗「各地からの通信 福岡県 「同和減免」の「七項目の確認事項」は、慣行として残存していた」(『人権と部落問題』部落問題研究所、2011年11月)
  14. ^ a b c 日本共産党議員の「同和脱税」追及国会議事録(2)
  15. ^ 衆議院予算委員会. 第128回国会. 4. 6 October 1993.
  16. ^ a b 参議院会議録情報 第192回国会 法務委員会 第12号
  17. ^ a b c d e f 中原京三『追跡・えせ同和行為』p.149-152(部落問題研究所、1988年)
  18. ^ 中原京三『追跡・えせ同和行為』p.146(部落問題研究所、1988年)
  19. ^ a b c d e f 中原京三『追跡・えせ同和行為』p.201-207
  20. ^ 中原京三『追跡・えせ同和行為』p.210
  21. ^ a b c https://daihanrei.com/l/京都地方裁判所%20平成%EF%BC%98年%EF%BC%88わ%EF%BC%89%EF%BC%92%EF%BC%98%EF%BC%98号%20判決
  22. ^ 逮捕の税理士は元小倉税務署長
  23. ^ 小倉タイムス » 元小倉税務所長 脱税指南事件公判
  24. ^ 同和減免脱税事件 「解同」福岡県連役員に6百万円謝礼 同和特別控除は慣行化 元小倉税務署長が証言





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