ビール
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原料
ビールの主な原料は水、デンプン源(麦芽など)、ビール酵母、香味料(ホップなど)である[15]。多くの場合、大麦の麦芽を主原料とし、副原料としてアサ科のホップやトウモロコシ、米、砂糖等が使われる。特にこれらの副原料は大麦麦芽の安価な代替物として使用されることがある[16]。また小麦やライ麦の麦芽でも製造は可能である。アフリカでは粟、ソルガム、キャッサバの根が、ブラジルではジャガイモ、メキシコではリュウゼツランがデンプン源として使われる[17]。
水
ビールの主成分は水である。地方によって水に含まれているミネラル組成は異なるため、各地方で製造するのに水に最も適したビールも異なり、地方ごとの特色が現れる[18]。たとえばアイルランドのダブリンの水は硬水であり、ギネスなどのスタウトビールの醸造に適している。チェコのプルゼニで採れる水は軟水で、ピルスナーウルケルなどのペールラガーの醸造に適している[18]。イングランドのブルトンの水はジプサム(石膏; 硫酸カルシウムの鉱物)が含まれているため、硫酸塩の添加(ブルトニゼーションと呼ばれる、ホップの風味を引き立たせる手法)が必要なペールエールビールの製造に適している[19]。
糖質原料
ビールのデンプン源に何を使用するかで、その濃さや風味が左右される。最も一般的なデンプン源は麦芽であり、後述のように大部分のビールには大麦の麦芽が使われる。麦芽の製法は種子に水と空気を与えて発芽させ、発酵過程に入る前に麦芽の成長を止めるため窯内で乾燥焙煎させる。これを焙燥という。その後、幼根を取り除いたものが麦芽である。種子が麦芽になることによって、デンプンを発酵性の糖に変える酵素が生産される[20][21]。同じ種類の穀物から作られた麦芽でも、焙燥時間と温度の違いによって、異なる色彩をもつようになる。暗色の麦芽からは暗色のビールが製造される[22]。多くのビールには大麦の麦芽が使用されている。オオムギは発芽力が強く、皮が薄く、デンプン質が多く、窒素量の少ないものが原料として優れている[20]。
ホップ
現在、商業用に生産されているビールのほとんど全てには、風味付けとしてホップが使われている[23]。ホップは和名をセイヨウカラハナソウというつる性植物で、その花はビール製造において風味付けと保存性を高める機能を持つ。
ホップは元々はドイツのヴェストファーレン地方にあるコルヴァイ修道院のようなビール醸造所で、西暦822年から使用されていた[24][25]。だがビールに使用するための大量栽培が開始されたのは13世紀になってからである[24][25]。13世紀から16世紀までの間、ホップは最も主要な香味料として使われるようになっていった。しかしそれ以前には、他の植物(例えばGlechoma hederacea)が香味料として使われることもあった。「歴史」の節で述べたが、グルート (gruit) と呼ばれるニガヨモギなどの様々なハーブ、ベリー類も、現在のホップと同じように、ビールの香りづけに使用されていたこともある[26]。現在製造されているビールで、香りづけにホップ以外の植物も使用しているものは、Scottish Heather Ales companyのFraoch'[27]やla Brasserie-LancelotのCervoise Lancelot[28]などである。ホップは、麦芽の甘みと調和のとれた苦味をビールに与え、また花や柑橘系、ハーブのような香りをビールに与える。ホップには抗生物効果があり、ビール醸造に寄与しない微生物を抑え、ビール酵母が有利に働く環境を整える効果がある。他にも泡持ち(ヘッドリテンション)の長さに寄与し[29][30]、保存力を高める効果がある[31][32]。
ビール酵母
ビール酵母は穀類から引き出した糖を代謝し、エチルアルコールと炭酸ガスを生産する。酵母の働きによって麦芽汁がビールになる。また酵母はビールの個性、味わいにも影響を与える[33]。ビール酵母には、発酵中に発生する炭酸ガスとともに液面に浮かび、褐色クリーム状の泡の層を形成する上面発酵酵母と、発酵末期に槽の底に沈殿する下面発酵酵母が存在する。製造に前者を用いるビールを上面発酵ビール(エール)、後者を用いるビールを下面発酵ビール(ラガー)という[20](詳しくは「分類」の節を参照)。最も主要な上面発酵酵母はSaccharomyces cerevisiaeで、最も主要な下面発酵酵母はSaccharomyces uvarumである[34]。バイエルンの白ビールではTorulaspora delbrueckiiが働く[35]。酵母の働きが解明される以前は、空中を漂う自然酵母によって発酵を行っていた。いわゆる自然発酵ビールである。大部分のビールは純粋培養の酵母を加えることで発酵を行うが、ランビックのようなごく一部は現在も自然発酵で製造されている[36]。自然発酵ビールのランビックでは主にBrettanomyces属の酵母が働く[37]。
清澄剤
清澄剤は濁り物質を凝集させて沈殿除去する働きのある物質である。製造直後のビールにタンパク質の濁りが見られるとき、醸造所によっては1種類あるいはそれ以上の清澄剤が添加されることがある。この操作によって澄んだビールを作ることができる[38]。ビールに使用される清澄剤の例としてはアイシングラス(魚の浮袋に含まれるゼラチン質)、アイリッシュモス(紅藻の一種)、Kappaphycus cottoniiから採れるκ-カラギーナン、ポリクラール、ゼラチンなどである[39]。もしラベルなどに「菜食主義者向け (suitable for vegetarians)」といったことが記されていたなら、そのビールには動物性のゼラチンが使われておらず、海藻由来や人工の添加物で澄ませている[40]。
注釈
出典
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