Riemann hypothesisとは? わかりやすく解説

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リーマン予想

(Riemann hypothesis から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/07 14:58 UTC 版)

リーマンのゼータ関数 ζ(s) (s = 1/2 + ix) の実部(赤線)と虚部(青線)。最初の非自明な零点Im s = x = ±14.135, ±21.022, ±25.011 に現れる。
臨界線(s = 1/2 + ix)上を移動する点の軌跡をゼータ関数によって変換したもの。この軌跡は繰り返し原点を通る曲線になる。
直線の実部を変化させたときゼータ関数が描く軌跡の変化。実部が 1/2 のときに上記と同じく軌跡は繰り返し原点を通る曲線になる。

数学においてリーマン予想(リーマンよそう、: Riemann hypothesis, : Riemannsche Vermutung、略称:RH)は、リーマンゼータ関数零点が、負の偶数と、実部 1/2複素数に限られるという予想である。リーマン仮説とも。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマン(1859)により提唱されたため、その名称が付いている。この名称は密接に関連した類似物に対しても使われ、例えば有限体上の曲線のリーマン予想がある。

リーマン予想は素数の分布についての結果を含んでいる。適切な一般化と合わせて、純粋数学において最も重要な未解決問題であると考える数学者もいる[1]。リーマン予想は、ゴールドバッハの予想とともに、ヒルベルトの23の問題のリストのうちの第8問題英語版の一部である。クレイ数学研究所ミレニアム懸賞問題の1つでもある。

リーマンゼータ関数 ζ(s)1 を除くすべての複素数 s で定義され、複素数の値をとる関数である。その零点(つまり、関数値が 0 となる s)のうち、負の偶数 s = −2, −4, −6, … はその自明な零点と呼ばれる。しかしながら、負の偶数以外の零点も存在し、非自明な零点と呼ばれる。リーマン予想はこの非自明な零点の位置についての主張である:

リーマンゼータ関数のすべての非自明な零点の実部は 1/2 である。

いいかえると、

リーマンゼータ関数のすべての非自明な零点は、複素数平面上の直線 1/2 + itt実数)上にある。ここで i虚数単位である。この直線を臨界線 (英語: critical line) という。

リーマン予想に関する非専門の本が何冊か存在する[注 1]

概要

リーマン素数の分布に関する研究を行っている際にオイラーが研究していた以下の級数をゼータ関数と名づけ、解析接続を用いて複素数全体への拡張を行った。

ゼータ関数を次のように定義する(複素数 s の実部が 1 より大きいとき、この級数絶対収束する)。

この節の加筆が望まれています。 2017年7月

ディリクレの L 級数と他の代数体

リーマンのゼータ関数を、形式的には似ているがはるかに一般的な大域的 L-関数に置き換えることによって、リーマン予想を一般化することができる。このより広い設定において、大域的 L-関数の非自明な零点の実部が 1/2 であると期待される。リーマンのゼータ関数のみに対する古典的なリーマン予想よりもむしろ、これらの一般化されたリーマン予想が、数学におけるリーマン予想の真の重要性の理由である。

一般化されたリーマン予想 (generalized Riemann hypothesis) は、リーマン予想を全てのディリクレの L-関数へ拡張したものである。とくにこの予想は、ジーゲルの零点英語版 1/21 の間にある L 関数の零点)が存在しないという予想を含んでいる。

拡張されたリーマン予想 (extended Riemann hypothesis) は、リーマン予想を代数体の全てのデデキントゼータ関数へと拡張したものである。有理数体のアーベル拡大に対する拡張されたリーマン予想は、一般化されたリーマン予想と同値である。リーマン予想は代数体のヘッケ指標L-関数へ拡張することもできる。

大リーマン予想英語版 (grand Riemann hypothesis) は、全ての保型形式のゼータ関数(例えばヘッケ固有形式英語版メリン変換)へ拡張したものである。

種々の結果

リーマン予想を証明したと発表した数学者もいるが、正しい解答として受け入れられたものは2019年9月現在存在しない。Watkins (2007) はいくつかの正しくない解答をリストしており、より多くの正しくない解答は頻繁に発表されている[14]

例えば2004年には、ルイ・ド・ブランジュが証明に成功したと発表したが後に否定された[15][16]2018年には、マイケル・アティヤ微細構造定数の導出の副産物としてリーマン予想を証明したと発表したが、多くの専門家は懐疑的に見ている[17][18]。この論文は王立協会が発行する科学誌に投稿され、専門家らにより検証が進められていた[19]ものの、発表から数ヶ月を経て著者は死去、論文は撤回となった。

作用素理論

ヒルベルトとポリヤはリーマン予想を導出する1つの方法は自己共役作用素を見つけることであると提案した。その存在から ζ(s) の零点の実部に関する例の主張が、実固有値に主張を適用すると従うのである。このアイデアのいくつかの根拠は、零点がある作用素の固有値に対応するリーマンゼータ関数のいくつかの類似から来る:有限体上の多様体のゼータ関数の零点はエタールコホモロジー群上のフロベニウス元の固有値に対応し、セルバーグゼータ関数の零点はリーマン面のラプラス作用素の固有値であり、p 進ゼータ関数の零点はイデール類群へのガロワ作用の固有ベクトルに対応する。

Odlyzko (1987) は、リーマンゼータ関数の零点の分布はガウスのユニタリアンサンブル英語版から来るランダム行列の固有値といくつかの統計学的性質を共有していることを示した。これはヒルベルト–ポリヤ予想にいくらかの根拠を与える。

1999年、マイケル・ベリージョナサン・キーティング英語版は古典ハミルトニアン H = xp のある未知の量子化

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零点の個数

関数等式を偏角の原理と合わせて考えれば虚部が 0T の間にあるゼータ関数の零点の個数は s = 1/2 + iT に対して次で与えられる:

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Hardy (1914)Hardy & Littlewood (1921) は、ゼータ関数に関連したある関数のモーメントを考えることによって、臨界線上には零点が無限個存在することを証明した。Selberg (1942) は、少なくとも(小さい)正の割合の零点は臨界帯上にあることを証明した。Levinson (1974) は、ゼータ関数の零点をゼータ関数の導関数の零点と関連付けることで、それを 1/3 に改善し、Conrey (1989) はさらに 2/5 に改善した。

真偽の議論

リーマン予想に関する数学の論文は、それが真であるかどうか注意深く明言しない傾向にある。Riemann (1859)Bombieri (2000) のように、意見を述べる人の大半は、リーマン予想は正しいと予想(あるいは少なくとも期待)している。これについて深刻に疑問を呈することを表明する人は少なく、その中には Ivić (2008)Littlewood (1962) がいる。Ivić は懐疑的に考えている理由を並べている。また Littlewood は、誤りであると信じており、正しいという何らの証拠がない、正しいことを示す想像できる理由も全く存在しない、ときっぱり述べている。サーベイの論文 (Bombieri 2000, Conrey 2003, Sarnak 2008) の共通認識としては、リーマン予想が正しいという証拠は、強いが圧倒的ではないので、おそらく正しいであろうが、これを疑問視するのも妥当であるとしている。

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 例えば ブルーバックス (2015)[2]Derbyshire (2003), Rockmore (2005), (Sabbagh 2003a, 2003b), du Sautoy (2003).本 Edwards (1974), Patterson (1988), Borwein et al. (2008), Mazur & Stein (2015) は数学的な入門を与え、Titchmarsh (1986), Ivić (1985), Karatsuba & Voronin (1992) は進んだモノグラフである。さらに、John Forbes Nash Jr. と Michael Th. Rassias によって編集された本 Open Problems in Mathematics英語版 は、Alain Connes によるリーマン予想に関する広範なエッセイを取り上げている[3][4]
  2. ^ Re は複素数の実部を示す記号。
  3. ^ 素数計数関数 π(x)対数積分による近似公式を指す。同値命題の節の第一の命題を参照。リーマンの素数公式より、π(x) の対数積分による近似の誤差項はゼータ関数の零点が臨界帯の両端から遠ければ遠いほど小さくなることが分かる。この距離が最大限に遠いということ、即ち全てのゼータ零点が臨界帯の中心線上に整列しており、近似の誤差がその方針で考え得る限り最も小さくなるだろうということがリーマン予想のそもそもの意味である。
  4. ^ 当然のことだが、はっきりした根拠を持たずに。

出典

  1. ^ Bombieri 2000.
  2. ^ 中村, 亨. (2015). リーマン予想とは何か. 講談社, 東京 
  3. ^ Nash, J. F.; Rassias, M. Th. (2016). Open Problems in Mathematics. Springer, New York 
  4. ^ Connes, Alain (2016). “An Essay on the Riemann Hypothesis”. In: Open Problems in Mathematics (J. F. Nash Jr. and M. Th. Rassias, eds.), Springer: 225–257. doi:10.1007/978-3-319-32162-2_5. 
  5. ^ ダービーシャー 2004, pp. 309, 411.
  6. ^ Helge von Koch, "Sur la distribution des nombres premiers", Acta Mathematica 24 (1901), 159–182. doi:10.1007/BF02403071
  7. ^ Lagarias, Jeffrey C., "An elementary problem equivalent to the Riemann hypothesis." American Mathematical Monthly 109 (2002), no. 6, 534-543.
  8. ^ Ingham 1932, Theorem 30.
  9. ^ Ingham 1932, p. 82.
  10. ^ J.E. Littlewood, 1912; see for instance: paragraph 14.25 in Titchmarsh (1986)
  11. ^ Franel & Landau 1924.
  12. ^ Titchmarsh 1986.
  13. ^ Nicely 1999.
  14. ^ the Riemann hypothesis”. arxiv.org (2018年10月3日). 2018年10月3日閲覧。
  15. ^ リーマン予想 - 意味・説明・解説 : ASCII.jpデジタル用語辞典”. yougo.ascii.jp. 2018年10月11日閲覧。
  16. ^ リーマン予想の150年. Kurokawa, Nobushige, 1952-, 黒川, 信重, 1952-. 東京: 岩波書店. (2009). ISBN 9784000067928. OCLC 676013439. https://www.worldcat.org/oclc/676013439 
  17. ^ “Famed mathematician claims proof of 160-year-old Riemann hypothesis” (英語). New Scientist. https://www.newscientist.com/article/2180406-famed-mathematician-claims-proof-of-160-year-old-riemann-hypothesis/#.W6l4nF6LAG9.twitter 2018年9月25日閲覧。 
  18. ^ “2018-The_Riemann_Hypothesis.pdf”. Google Docs. https://drive.google.com/file/d/17NBICP6OcUSucrXKNWvzLmrQpfUrEKuY/view 2018年9月25日閲覧。 
  19. ^ “超難問「リーマン予想」証明? 英数学者に懐疑的な声も:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル. https://www.asahi.com/articles/ASL9T42NNL9TULBJ004.html?_requesturl=articles/ASL9T42NNL9TULBJ004.html&rm=606 2018年10月11日閲覧。 

参考文献

和書
  • ハロルド・M・エドワーズ『明解 ゼータ関数とリーマン予想』鈴木治郎 訳、講談社、2012年6月25日。 ISBN 978-4-06-155799-4  - 原タイトル:Riemann's Zeta Function.
  • 鹿野健 編『リーマン予想』日本評論社、1991年9月30日。 ISBN 4-535-78181-8 
  • ジョン・ダービーシャー『素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦』松浦俊輔 訳、日経BP社、2004年8月30日。 ISBN 4-8222-8204-X  - 原タイトル:Prime obsession.
  • リーマン『リーマン論文集』足立恒雄杉浦光夫長岡亮介 編、朝倉書店、2004年2月20日。 ISBN 4-254-11460-5 
  • 黒川信重:「リーマン予想の150年」、岩波書店、ISBN 978-4-00-006792-8 (2009年11月5日).
  • 黒川信重(編著):「リーマン予想がわかる」、日本評論社(数学セミナー増刊)(2009年11月25日).
  • 黒川信重、小山信也:「リーマン予想のこれまでとこれから」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78550-2 (2009年12月10日).
  • 黒川信重:「リーマン予想の先へ:深リーマン予想ーDRH」、東京図書、ISBN 978-4-489-02151-0 (2013年4月25日).
  • 仲村亮:「リーマン予想とはなにか:全ての素数を表す式は可能か」、講談社ブルーバックス、ISBN 978-4-06-257828-8 (2015年8月20日).
  • 黒川信重:「リーマンと数論」、共立出版、ISBN 978-4-320-11234-6 (2016年12月15日).
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