I 音と II 音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 07:19 UTC 版)
I 音 房室弁(僧帽弁と三尖弁)により、血流が突然遮断されることに起因し発生するさまざまな要因の音。心尖部でよく聞こえる。 II 音 肺動脈弁と大動脈弁の閉鎖音。心基部でよく聞こえる。 上記のような定義が一般的には知られている。時相でいうと、次音との間隔が短いのが I 音であり、次音との間隔が長いのが II 音である。心電図のQ波から II 音の間が収縮期であり、II 音と心電図のQ波の間が拡張期である。健常者では I 音から II 音より II 音から I 音の方が長いという事実と時相の分析はよく一致する。また I 音と II 音は部位によって大きさが異なることも知られている。心尖部では I 音の方が大きく聞こえ、心基部では II 音の方が大きく聞こえる。これは心尖部では僧帽弁により近く、心基部は大動脈弁に近いからであると考えられている。もし、I 音と II 音の同定に困ったら心尖部から心基部へ順に心音を聞いてみればよい。徐々に大きくなるのが II 音である。心基部では確実に II 音が大きく聞こえる。また I 音の方が持続時間も若干長いといわれている。頻脈を呈しているときはこういった知識を用いても I 音と II 音を同定できない時もある。このばあいは頸動脈を触診する。原則として I 音と II 音の間に頚動脈で拍動が触れる。もちろん橈骨動脈や足背動脈でも同様であるが、頸動脈が一番確実に同定できるといわれている。 I 音と II 音の異常としては以下のようなものが知られている。 I 音の異常I 音の亢進:左室収縮力の増強、僧帽弁狭窄、PQ時間短縮、完全房室ブロックで、PとQRSが重なると大砲音という巨大な I 音が聴こえる。 I 音の減弱:左室収縮力の減少、僧帽弁閉鎖不全、PQ時間延長 I 音の分裂:脚ブロックで聞かれることがある。 II 音の亢進、減弱:肺動脈成分IIp、大動脈成分IIaが存在。通常IIaが先行する。II音の亢進、減弱は難しいので省略。 II 音の分裂生理的分裂:吸気時にIIpが遅れる。 病的分裂:IIa〜IIpの間隔が呼気・吸気ともに幅広く分裂する。MR、VSD、PS、RBBBでおこる。 固定性分裂:IIa〜IIpの間隔が呼吸によらず一定。ASDでおこる。 奇異性分裂:IIpがIIaに先行する。吸気時より呼気時の方が分裂がはっきりする。AS、LBBBでおこる。 これらは I 音、II 音の生理学的な意義から、ある程度考察することができる。I 音は左室の機能に関係した音である。実際に若くて健康な人では I 音は大きく聞こえる傾向がある。心尖部で I 音が小さく聞こえるときは左心室の機能が低下しており、実際に心臓超音波検査ではEFが低値である傾向がある。強弱がわかりにくければベル型と膜型の聴診器を使い分ければよい。ベル型(軽く当てる)で聴取できて、膜型(強く押し付ける)で聴取できなければ高音が乏しく、I 音は減弱している。 II 音は、大動脈弁由来のAと肺動脈弁由来のPの二つの成分より構成されている。AとPの区別は頸動脈波などを用いなければわからないが、健常者の場合はAは心基部から心尖部に渡って聴取できるがPは2LSB近くに限局して聞こえるといった分布に差がある。分裂を聞き分けるには息こらえが必要な場合もある。分裂音はあくまで II 音なので心基部で聴取する。心尖部で同様の音が聞こえたら、それは II 音の分裂ではなく過剰心音である。分裂で特に重要なのは、息を止めなくても分裂が変化しない固定性分裂である。心電図で不完全右脚ブロックを認め、固定性分裂を認めたら心房中隔欠損症の可能性が高く、心臓超音波検査などで確定する必要がある。成人の場合は自然閉鎖が期待できず、手術の適応例が多い。
※この「I 音と II 音」の解説は、「聴診」の解説の一部です。
「I 音と II 音」を含む「聴診」の記事については、「聴診」の概要を参照ください。
- I 音と II 音のページへのリンク