ES細胞を用いた再生医療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/14 09:09 UTC 版)
「胚性幹細胞」の記事における「ES細胞を用いた再生医療」の解説
ヒトES細胞を用いた再生医療は、現時点ではまだ開発中であり実現はされていない。 ES細胞を再生医療に応用するためには、まずES細胞をある特定の細胞に分化させなくてはならない。これについては、神経細胞や心筋細胞、膵臓ベータ細胞などに効率的に分化させる方法が盛んに開発されている。その上で、分化した細胞を選択後、移植することになる。例えば、糖尿病患者に対しては、ES細胞の分化によって得たインスリンを分泌する膵臓ランゲルハンス島(膵島)ベータ細胞に相当する細胞を、患者に移植するという操作が必要となるが、主要組織適合抗原 (MHC) が患者とES細胞の材料となった受精卵とで異なることが大半であるために、移植しても拒絶されるという問題点がある。 これを克服するため、患者由来の遺伝子を有するES細胞を樹立することができれば、拒絶されることはなく幅広い応用が可能になる。近年動物においては、体細胞核移植の技術により、卵の核を体細胞の核と置換してクローン胚を得、そこから生体外にて胚盤胞にまで発生させた後にES細胞を樹立することが可能になっている(体細胞由来ES細胞)。ヒトにおいても技術的には動物と同様にこの技術を用いてクローンES細胞を得ることは可能であると思われている。だが、成功率が低いため多量の卵を必要とすること、さらにその中途段階にて得られるクローン胚を母体の子宮に戻せばクローン人間を作製することが可能であるために、先進国各国の大多数において現段階ではヒトクローンES細胞の作製は禁止されている(現在ではクローン個体を作製しないという限定条件下にて、難病治療目的でのクローンES細胞の作製は認められる方向である)。なお、この倫理的問題を解決するために、既に樹立されたES細胞と体細胞を融合させ、多分化能を持つ細胞を作製する手法が開発されている。この場合、拒絶反応を回避するにはES細胞由来の染色体を除去する必要があり、その技術開発が進められている。 また、ES細胞を生体外にて増殖させ続けると、染色体変異、遺伝子異常が生じて次第に蓄積していくことが明らかとなっており、医療への応用は樹立後間もない株に限られるであろう。こうした遺伝子異常の結果、癌(がん)化する可能性も指摘されている。以前は、ES細胞は、ウシ胎仔血清など動物由来の成分を含んだ培地で培養することが一般的であったが、現在は、これらの問題は既に解決されており、先進国のES細胞研究所では、既に、動物由来成分を含まない培地を用いてヒトES細胞を増殖・分化させることが常識となっている。
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