ES細胞を使った研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/14 09:09 UTC 版)
遺伝子疾患の患者の核を移植したntES細胞を用いると、この細胞を適切に分化させることで、生検せずとも、患者と同じ表現形質を持った体細胞を多量に得ることができるようになる。このような体細胞は、病因の研究や薬剤のスクリーニング(選別)など治療法の開発に有用である。 2004年にシカゴ生殖遺伝学研究所のユーリー・バーリンスキーらのグループは、遺伝病を持つヒトの胚から20のES細胞株を樹立することに成功した。これらは深刻な遺伝病の治療研究に使用可能な初のES細胞である。ユーリー・バーリンスキーは現在、他に遺伝子の異なる200株以上のES細胞を保有しており、これらは医薬品のスクリーニング(選別)などへの使用が可能である。 2013年6月、アメリカの研究グループがES細胞のヒトクローン胚作製に成功したと報告、研究はアメリカの科学雑誌「Cell」に掲載された。 2014年12月24日、英ケンブリッジ大学などのグループが、ヒトのES細胞、iPS細胞を使って精子や卵子の基になる「始原生殖細胞」を安定的に作ることに成功したと発表し、米科学誌セル電子版に掲載された。マウスでは既に京都大学のチームが作製し、正常な精子や卵子を作ることにも成功している。ヒトの始原生殖細胞を作ったとする報告は既にあったが、形成過程は十分に解明されておらず、ヒトでは安定して作ることが難しかった。ケンブリッジ大学のグループは、ヒトの場合マウスと違って「SOX17」という遺伝子が重要な役割を果たすことを突き止め、安定的に製作することに成功した。将来的に不妊の原因解明にも役立つ可能性があるとしている。 2015年1月29日、ES細胞から小脳組織を作ることに化学研究所多細胞システム形成研究センターなどのチームが成功し、米科学誌「セルリポーツ」電子版に発表された。 2018年5月、京都大学は、不妊治療で余った受精卵からES細胞を作り、提供できる体制が整ったことから、2018年7月から大学や企業にES細胞を配布すると発表。大学には1株3万円、企業には同6万円で配布する。京都大学は「ES細胞は再生医療の新たな選択肢になる。iPSと比較検証することで、安全性や有効性の向上に貢献できる」としており、ES細胞による再生医療の研究に弾みがでることが期待される。
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