馬インフルエンザウイルスとワクチン開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/01 02:42 UTC 版)
「馬インフルエンザ」の記事における「馬インフルエンザウイルスとワクチン開発」の解説
馬インフルエンザは、世界的に古くから臨床的には知られていたが、初めて馬インフルエンザウイルスが分離されたのは1956年のことである。 馬インフルエンザウイルスには1956年にチェコのプラハで初めて分離されたウマ1型ウイルス(A/equine/Prague/1/56(H7N7)。プラハ型とも呼ばれる)と、1963年にアメリカのマイアミで初めて分離されたウマ2型ウイルス(A/equine/Miami/1/63(H3N8)。マイアミ型とも呼ばれる。アルゼンチンからフロリダに持ち込まれた馬からフロリダの馬群に広がった。その後、1964年から1965年にかけてヨーロッパの馬群にも導入された)の2系統があるが、1987年のインドを最後にウマ1型ウイルスが確認されたことはなく、それ以降に流行しているのはウマ2型ウイルスである(ただし、1989-1990年に中国東北部で流行したものを除く)。ウマ1型ウイルスよりウマ2型ウイルスの方が病原性、伝播性ともに強いとされる。 1987年頃、ウマ2型ウイルスはヨーロッパ系統とアメリカ系統の2つの系統に分岐し、それ以降それぞれヨーロッパとアメリカに定着したとされる。しかし、近年ヨーロッパ系統は世界的に発生してはいるものの大流行はしておらず、アメリカ系統がヨーロッパなどでも大流行の原因となっている(2003年の南アフリカ、イギリス・ニューマーケットの大流行もアメリカ系統のウイルスが原因。このとき、ニューマーケットで検出されたアメリカ系統のウイルスは、イギリスにおける初めてのアメリカ系統の亜型に属するものであった)。 タンパク質のデータベースであるUniProtにはインフルエンザA型ウイルスのサブタイプの分類もあるが、このうち馬に関するものはH3N3型については「A/equine/New Market/1979(H3N3)」の1種のみだが、H3N8型については非常に多く登録されている。 上記のようなウイルスの抗原変異に対応するため、馬インフルエンザのワクチンにはウマ1型、ウマ2型のヨーロッパ系統、ウマ2型のアメリカ系統の3つの株が含まれる混合ワクチンが用いられることが多い。たとえば、現行の2004年のワクチンにはNewmarket/77株(ウマ1型)、La Plata/93株(ウマ2型アメリカ系統、アルゼンチン株)、Avesta/93株(ウマ2型ヨーロッパ系統、スウェーデン株)が含まれている。 日本における馬インフルエンザ研究は1969年、後の競走馬保健研究所栃木支所で馬インフルエンザの診断法の研究から開始され、1970年には蛍光抗体法による迅速診断法や血清診断法である血球凝集抑制反応が可能な状態となった。また、日本生物科学研究所と共同でワクチン開発の研究も始まったのも同じ1970年である。馬インフルエンザの終息後の1972年5月にはワクチンの野外試験が実施され、同年秋にはワクチンの商品化に成功し、同時に全ての競走馬にワクチンが定期的に接種されるようになった。また、ウイルスの抗原変異に対応するため、1985年、1996年、2004年の3度にわたり、ワクチン株の変更が行われている。 2007年8月以降、日本で流行した馬インフルエンザウイルスはウマ2型ウイルスH3N8型であり、遺伝子性状は「フロリダ亜系統」のグループに含まれることが判明している。遺伝子解析の結果、今回分離されたウイルスと過去のウイルスの遺伝子におけるアミノ酸配列を比較した場合、「A/equine/Florida/1/03(H3N8)」の亜系統に属する「A/equine/Wisconcin/1/03(H3N8)」と99%以上の相同性(遺伝子のアミノ酸配列の相同性は、赤血球凝集素(HA1)遺伝子で99.3%、ノイラミニダーゼ(NA)遺伝子で99.0%)があることが明らかになっている。また、日本とほぼ同時期にオーストラリアで発生した馬インフルエンザのウイルスについて、ビクトリア州のオーストラリア動物衛生研究所(AAHL:The Australian Animal Health Laboratory)が行った遺伝子解析では、ウイルスの遺伝子におけるアミノ酸配列が上記の「A/equine/Wisconcin/1/03(H3N8)」と99.6%の相同性(赤血球凝集素(HA1)遺伝子については99%)を示したとされている。
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