限界と強化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/19 03:54 UTC 版)
訓練を積んでいない人間は6G程度で失神するといわれているが、瞬間的ならばより高Gであっても耐えることが出来る。トレーニングを積んだ曲技飛行士が耐Gスーツ(液体式)を使用すれば10Gでも操縦を続けることが可能であるが、体調などの要因で変化するためルールで制限をかけることが多い。 戦闘機パイロットは耐Gスーツがない状態で8Gに耐えることが求められるが、G耐性には個人差があり特にグレイアウトの始まりは訓練の有無にかかわらず定則的である。しかしウェイトリフティングなどで上半身の筋肉を強化する、心肺機能を強化してより多くの酸素を脳へ供給できるようにする、大腿や腓腹筋など下半身の筋力強化する、ピラティス・メソッドなどで体幹を鍛えるなどの身体トレーニングにより、ブラックアウトになる限界のGを引き上げることが可能である。戦闘機パイロットだった油井亀美也は、訓練開始時点では3Gでグレイアウト、6Gでブラックアウトしていたが、訓練終了間際には8Gでもブラックアウトにならず訓練に合格した。 人間は慣れればある程度血流をコントロールすることが可能であるため『Gがかかる前に深呼吸して息を止め、下半身の筋肉を緊張させる』『適切なタイミングで呼吸を繰り返す』などの手法で一時的に失神を防ぐことが出来るという。また戦闘機パイロットは意図的に5G程度を体にかけグレイアウトになってから即緩めることで、1時間ほどG耐性を向上させる『Gウォーム』という手法を利用している。 脳と心臓の高さが同じであればより多くの血液を供給できるため、座席のリクライニング角を大きくして高度差を抑える設計もある。ただし極端に角度を大きくすると腕と操縦桿が離れ前方の視界も制限されるため操縦に影響が出る。F-16ではリクライニング角を30度と深めているが、フライ・バイ・ワイヤを採用することで操縦桿を操縦者の右側に置き操縦に影響が出ないようにしている。耐Gスーツが実用化される以前には脳と心臓の高さが同一となり前方視界も確保できるとして、アカフリーク・ベルリン B9、サヴォイア・マルケッティ SM.93、R.S.4 ボブスレーのようなパイロットが伏臥位に近い状態で操縦する機体の実験が行われていた。耐Gスーツの実用化以降も姿勢の影響を調査するためグロスター ミーティア F8 プローン・パイロットのような実験機が製作されている。
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