鉄
『日本アパッチ族』(小松左京) 大阪の陸軍砲兵工廠跡に住む「アパッチ」と呼ばれる人々は、採集した屑鉄を売って日々の食を得ていたが、やがて彼らは、屑鉄そのものを食うようになった。彼らの身体は鋼鉄化し、排泄物は純度の高い鉄となった。大阪のみならず、日本の各地に鉄を食う人たちが現れ、何十万人にもなった彼ら「アパッチ族」は、警察や軍隊と戦う。彼らは弾丸をはね返し、敵の武器や戦車を食って、ついに日本を滅ぼしてしまった。かつてアウストラロピテクスが獣肉食を始めて、人間の身体と脳は格段に発達した。食鉄人種の発生は、人類の新たな進化を示唆する出来事かもしれない。
『日田の鬼(き)太夫』(昔話) 出雲の小冠者という天下一の力士がいた。その母親は妊娠中、毎日砂鉄ばかり食べていたので、小冠者の五体は鉄のように堅い。ところが、たった1度だけ、母親は胡瓜(まくわうり)を食べた。そのため小冠者の身体は、額に1箇所、柔らかなところがあった〔*豊後の日田の力士・鬼太夫がこの秘密を知り、小冠者との相撲に勝った〕。
弁慶の伝説(谷川健一『鍛冶屋の母』) 弁慶の母は、つわりの時に鉄を好んで食べた。鍬を1丁、2丁と食べ、10丁目の鍬を半分食べたところで、弁慶が生まれた。そのため弁慶は総身(そうみ)が鉄であったが、鉄を少し食べ残したため、4寸四方だけは人間の膚だった。
★3.鉄を産む。
『太平記』巻13「干将莫耶が事」 楚王の夫人が、鉄(くろがね)の柱によりそって涼んでいた。やがて夫人は懐妊し、月満ちて1つの鉄丸を産んだ。楚王は「これは金鉄の精霊であろう」と考え、干将という鍛冶を召して、「鉄丸で宝剣を作り、献上せよ」と命じた〔*干将は妻莫耶とともに呉山にこもり、雌雄の2剣を作った〕。
『鉄のストーブ』(グリム)KHM127 婆さんの魔女に呪われて、どこかの国の王子が、森の中の大きな鉄のストーブの中へ閉じ込められた。1人のお姫様が森で道に迷い、鉄の箱(=ストーブ)の前へ来る。箱の中から、「小刀で鉄をけずり、穴を開けて下さい」と声がする。お姫様が小さな穴を開けてのぞくと、美しい王子が黄金や宝石にくるまって光っていた。お姫様は喜んで一生懸命に鉄をけずり、王子は穴から出てくることができた〔*その後、王子とお姫様はいったん離れ離れになるが、最後には2人はめでたく結婚する。燃えるストーブ=地獄、という解釈がある〕。
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