選択から戦略へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/04 03:42 UTC 版)
このようにして、r選択とK選択を分析していくうちに、このふたつが相反する性質を持つと理解されるようになった。rを増加させるために、たとえば産卵数を増やすとすれば、そのためには卵を小さくしなければならない。そうすれば個々の卵の生存率は低下する。逆に、生まれた子の成長の確実性を高めるには、多くの栄養を与えた方がよいが、そうすれば多数を作ることができなくなる。それぞれの生物は、どちらかの方向を戦略として選び、それに向けて進化すると考えられる。もちろん、ここでは生物がそれぞれに選ぶという表現を取っているが、実際には、環境条件と系統的制約のもとで自然選択によってどちらかの戦略に収斂していくという意味である。 このような観点から、r選択とK選択によって得られた形質一式を、それぞれr戦略とK戦略と呼び、その戦略を持つ種をそれぞれr戦略者とK戦略者と呼ぶ。 この2つの戦略はそれぞれ有効なものであり、どちらを選んでもいいようにも思えるが、どちらか一方が有効な状況があると考えられる。たとえば、2種の生物が競争関係にある場合を設定し、r戦略者が高いrと低いKを、もう一方のK戦略者が低いrと高いKを持つとして、シミュレーションを行えば、当初はr戦略者が個体数を増やすが、時間が経てばK戦略者が盛り返してr戦略者を圧倒する。これは、安定した環境ではK戦略者が優位になることを意味し、逆に見れば、撹乱の多い環境では、r戦略者が優位であるということである。 一般に、物理化学的環境が厳しい場所では、r戦略が採用されがちである。例えば極地付近では、寒さと、それに伴う食糧不足のために死亡することが多い。特に、気候変動によって寒さが厳しい年には、多くの個体が命を落とし、個体群の規模が大きく変動する場合がある。そのような条件下では、多産な個体の方が有利である。トナカイは、一般のシカが2年目から毎年2頭を出産するのに対し、1年目に1頭を出産するが、これは繁殖にかかる時間を短縮することになり、rを高くする効果がある。 また、子の生存が、偶然に左右される場合も、この戦略を取らねばならない。たとえば、生息区域が一定せず、毎年生息可能な場所が変わるような場合がそれである。安定した植生が撹乱されたところにのみ出現する雑草は、撹乱がなくなり植生が安定した遷移をたどるところには生育できない。子孫が確実に撹乱された場所にたどり着くためには、多数の種子を、広くばらまく必要がある。寄生性の生物は、新しい宿主にたどり着けるかどうかに偶然の要素が大きく、どうしても多数の子を作っておかねばならない。多数の子による分散とクローン増殖戦略を採用している代表例に一部のアブラムシがある。 他方、熱帯雨林のように物理化学的には生息に適した環境では、生存に影響を与えるのは、主として生物間の競争である。このような条件下では、少数の子を確実に育てることが重要になる。つまり、K戦略を取るものが多いと考えられる。 他に、子供があまりにも小さすぎて生存が見込めない環境下でも、必然的にK戦略を取らざるを得なくなる。例えば、サワガニやザリガニなど、淡水で生活史を完了する甲殻類は、幼生をプランクトンにして放出したのでは、生存できる見込みがない。どうしても大きな卵を産まねばならない。 ただし、注意すべきなのは、ここでは、rとKは、既に本来の意味からは離れてしまっている部分があることである。本来のrは、最大産卵数を意味するものではない。野外個体群において、個体群密度と増加率を求め、そこからrを算定すれば、それは最大産卵数よりはるかに小さくなる。個体群密度が0に近くても、子の生存率は100%ではないからである。また、rが大きければ必ずしもKが小さくなるというものでもない。
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