貴重な生態系の危機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 08:48 UTC 版)
「日本の高山植物相」の記事における「貴重な生態系の危機」の解説
このように北岳、夕張岳などといった日本の高山植物の著名な産地は、豊かな生物多様性に恵まれた日本国内の中でも特に生物多様性が高い地域であるが、現在様々な理由でその貴重な生態系がおびやかされている。まず問題となるのが人間による高山植物の盗掘である。高山植物の盗掘は各地で大きな問題となっているが、特に北海道は本州の中部山岳地帯よりも登山客が少ないためか大規模な盗掘がなされるケースが多いとされ、貴重な固有種で知られる夕張岳やアポイ岳、崕山での盗掘は激しく、アポイ岳や崕山ではヒダカソウやキリギシソウが盗掘によって多く見られる場所から姿を消したため、もともとの高山植物の分布が大きく改変されてしまったものと考えられるケースが確認されている。 また高山帯に観光開発等のために道路が建設されると、それに伴い低地に生育するヒメジョオンやオオバコなどが高山帯に分布を広げるようになった。特にオオバコは低温や乾燥に強い性質を持つため、高山帯での分布範囲の拡大が著しい。 人間による盗掘や道路建設に伴う低地の植物の進出以外に、現在日本の高山植物に危機をもたらしているものの一つが、もともと低山に生息するシカやニホンザルなどが高山帯に進出し、高山植物を食べる食害が深刻化している事実である。まずニホンザルは赤石山脈や飛騨山脈の稜線地帯にまで広く進出し、高山植物を食い荒らしていることが明らかになっている。そして高山植物の食害で最も深刻なものがシカによるもので、本州のニホンジカの食害は赤石山脈、八ヶ岳、尾瀬ヶ原などで広範囲に深刻な被害が見られ、北海道のエゾシカは知床、大雪山、夕張岳などで高山植物の食害が確認されている。 地球温暖化の影響と考えられる気象の変化も高山植物の生育環境をおびやかしている。例えばかんらん岩、蛇紋岩地の固有な高山植物の宝庫として知られるアポイ岳は、1950年代頃から高山植物の生育する草原地帯にハイマツやキタゴヨウ、アカエゾマツといった樹木の侵入が進み、高山植物の生育場所の縮小が著しく進んでいる。これはアポイ岳の冬季の気温上昇と積雪量の減少、夏季に比較的冷涼な気候を保っていた要因であった濃霧の発生量の低下が大きな原因であると考えられている。また八ヶ岳でキバナシャクナゲの群落に、キバナシャクナゲより標も高が低い場所に生育するハクサンシャクナゲが進出するようになるなど、八ヶ岳や赤石山脈でも高山植物が生育する場所に低地の植物が進出していることが確認されている。そして北岳に生育するキタダケソウは、気温上昇と冬季の積雪量の減少によるものと考えられる開花時期の早まりが観察されている。
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