貴ノ浪の取り口
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/09 15:00 UTC 版)
長身で長い手足からなる深い懐と強い足腰を活かして相手を引っ張り込むもので、他には真似出来ない取り口である。簡単に相手の二本差しを許し、自ら棒立ちの不利な姿勢を取るために悪癖と見られたが、実際はその形こそが貴ノ浪にとって十分の型だった。そのまま肘を張って両方の差し手を抱え込むと、貴ノ浪の長身に引っ張り上げられた相手は上体が伸び切り、寄りも投げも力が十分でなくなる。その姿から左右に振られて決め出されてはなす術が無く、そのまま土俵を割るほかない。その豪快な取り口は「UFOキャッチャー」と呼ばれた。しかし、基本を外れた極めて特異な取り口だったために、上位の番付を狙える相撲では無いと二子山から苦言を呈された。二子山は貴ノ浪の取り口を改善指導したことがあったが、かえって黒星が増えてさらに負傷までしたため、強引に改善させることを止めたほどである。貴ノ浪曰く、この取り口は小学生時代から変わらないという。しかしその性質上、曙太郎・武蔵丸光洋といった突き押しを得意とする長身の力士が苦手だった。 取り口の特性上、足腰の怪我を誘発しやすいという欠点があり、そのために晩年は足首の負傷にも悩まされた。自身の取り口は足腰が弱いと成り立たないため、大関時代には相手を引っ張り込んだり投げ飛ばしたような場面でも足腰の衰えが目に見えるようになった現役末期の頃は、あっけなく後退して土俵を割る場面も見られた。大関陥落後は復帰を目指すよりもいわゆる「魅せる相撲」に徹し、“自分にしか出来ない相撲を取る”と述べているように全盛時代の特有の取り口を見せることに価値を置いた。相手に十分攻めさせておいて手玉に取るという意味では真の横綱相撲が取れる唯一の力士と言っても良かったが、二子山部屋には既に貴乃花光司・若乃花勝が横綱だった事情もあってか、「横綱・貴ノ浪」は幻に終わった。 自身の死去に際してあるベテラン記者は「(貴ノ浪の取り口は)力自慢の典型。一気に横綱にまで登り詰めてしまえば良かったが、上位の相撲はパワーだけでは勝ち続けることは出来ない」と振り返っており、本人も生前「(自分の相撲は)良い子がマネをしてはいけない相撲だよ」と話していた。一方師匠の二子山はある時「親方、貴ノ浪はあと5センチ身長が低かったら、もっと勝てたんじゃないでしょうか」と記者に質問されると「いや、あれでいいんです。相手を引っ張り込むのが貴ノ浪の相撲ですから。初めて浪岡に会ったとき、あれだけ体が大きいのにスッスッと軽い足取りで歩いていてね。ばねがあって驚いた。足腰の強さがあるから、あの形にすることで彼は力を発揮できるんですよ」と答えていた。
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