証券取引所の規制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 21:13 UTC 版)
様々な商品取引でも同じであるが、商品取引を容易にするためには同じ場所、同じ時間に取引を品物を持ち寄ることで、売買の成立は容易になる。品物が互いにわかっている定型化された取引の場合には、注文という情報を持ち寄るだけでも同じことが可能である。つまり市場の本質は売買についての注文情報が集まり、新たな価格情報などが生み出される場所ということになる。こうして一度「市場」(マーケット)が成立すると、市場に参加するものの利害を守るために、市場に入ることに入場料を取ったり、市場に入れるものを限定して会員制度あるいは組合員制度を取ることも見られる。 証券取引所で多く見られた規制は、会員制度(会員だけが取引所で取引資格がある)、上場制度(取引可能なものを上場されたものに限定する)、市場集中原則(会員に対して上場証券について取引所での売買を義務付ける)、固定取引手数料制度(会員に対して取引所で定めた固定取引手数料を徴収することを義務付ける)などである。これらの規制には、市場の機能を高める側面と、会員の利害を守る側面との両面があると考えられる。 このような取引所の規制的なあり方は、自然発生的に市場の分裂(fragmentation)を生み出してきた。上場制度による制約は、上場されていない証券を店頭市場(over-the-counter markets)が扱うことを生み出した。また会員制度は、非会員が場外市場(curve markets)を作ることを妨げるものではなかった。他方で、市場の分裂は、売買注文を出す側からすれば、不便なことなので市場を統合するという合理化への圧力を生み出すものである。 このように市場は本質的に統合と分裂を繰り返す存在なのである。近年、この市場問題に新たな意味付けを与えているのは機関投資家 institutional investorsの成長である。投資金額が巨大化している機関投資家は、市場に対して自らの要求を突きつけるようになっており、市場はこの機関投資家の要求への対応を迫られているのである。加えて機関投資家の要求に沿うように取引のスピード、匿名性、コストでの効率化などを実現した私設取引システムPTS:proprietary trading systems(なお伝統的取引所に対抗するシステムとしての側面が強調されるときはPTSと呼ばれるが、同じシステムについて高度な情報技術システムの側面を強調するときは電子取引システムECN:electronic communication networks と呼ばれることがある)の登場と成長は、既存の取引所に脅威となり、取引所の側の変革を促すように作用したのである。 取引所による市場の独占や様々な規制は、先進資本主義国で独占禁止法制の例外として容認されていたが、すでに述べたように機関投資家(具体的には年金、保険、さまざまなファンドなど)は、このような取引所の独占が果たして効率的な市場を実現しているかについて疑問を提出するようになった。このような不満を受ける形で、アメリカでは1970年代にまたイギリスでは1980年代に、取引所の独占を否定する市場改革が実現した。このうち1986年にイギリスで行われた改革は「ビッグバン」(参照ビッグバン (金融市場))と呼ばれるもの。日本で1997年から1998年にかけて行われた市場改革は、このイギリスの改革をもじって「日本版ビッグバン」(参照金融ビッグバン)と呼ばれる。このような市場改革がPTSの登場をもたらし、市場改革のスピードをさらに上げることを既存の取引所に迫っているのである。
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