記憶の複雑さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 00:07 UTC 版)
DIDと診断された者の虐待比率については確実な統計はない。北米でも日本でも、性的虐待とカウントされるもののほとんどは自己申告である。DIDの患者が初期に「虐待」を訴えたとしても、本当にそうかもしれないし、そうでないかもしれない。8歳の女の子が、保護された施設や里親の家のベッドでフラッシュバックを起こし、身悶えしながら「私から下りて!」と金切り声を上げ、普段から色欲過剰でオナニーを抑制できず、赤く腫れ、ついには出血するまでやるとなったら、誰しもこれは性的虐待があったと推測する。 その一方で、宇宙人による誘拐記憶をもつ患者の臨床例も有名である。1992年8月のアメリカ心理学協会の大会でテネシー大学のマイケル・ナッシュは、宇宙人によって誘拐されたという記憶をもつ患者の臨床例を報告し、「臨床面での有効性という点では、事件が本当に起こったのか否かとことは大して重要ではない。・・・結局のところ、臨床家としての我々には、過去をめぐって堅く信じこまれた幻想と、過去のれっきとした記憶を区別する術はないのだ。」と述べている。 「解離の資質」で触れた空想傾向の強い人は、「空想したことの記憶と実際に体験したことの記憶を混同する傾向」があるという。DIDの患者は暗示や催眠に掛かりやすいかどうかは諸説あるが、少なくとも相手の気持ちに敏感であり、相手の意にそうように振る舞おうという傾向がほとんど条件反射的に染みついているということはある。従って治療者が意識的に誘導尋問する場合はもちろん、そのつもりはなくとも治療者がそうではないかと思い、質問をある点に集中するだけでも誤った記憶を想起してしまうことがありうる。ただしこれはDIDの患者だけにいえることではなく、普通の人間にも「偽りの記憶」を植え付けることは非常に簡単であり、またあてにはできないことが、エリザベス・ロフタス (Loftus,E.F.) 以降も多くの心理学者によって実験され、実験以外でも世界中の冤罪事件、冤罪でない事件で証明されている。回復記憶であるかどうかに関わらず、どんな記憶もアルバムから写真を取り出すようなものではなく、思い出そうとするそのときに構成されるので、人が思うほど正確なものではないとされている。
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