規範的アプローチと実証的アプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/13 04:58 UTC 版)
「会計学」の記事における「規範的アプローチと実証的アプローチ」の解説
会計学者の研究アプローチは様々だが、主に規範的アプローチと記述的アプローチ(日本において特に多いのは実証的アプローチ)に区分される。会計学において当初重視されていた規範的アプローチは、会計実務で採用されている会計基準から帰納的に会計理論を導出し(会計公準や会計原則等)、そこから「あるべき」会計ルールを演繹するというものであった。その他にも、経済学を基礎として「真の利益(true income)」を演繹する規範的研究を行う学者も多数存在した。1966年にAAA(アメリカ会計学会)が公表したA statement of basic accounting theory(ASOBAT)が、「意思決定有用性アプローチ」を提唱して以降は、会計あるいは財務報告を、情報利用者の意思決定に有用な情報を提供するシステムとしてとらえる見方が支配的となり、会計実務ではなく、意思決定有用性という概念規定から、望ましい会計基準を演繹する手法が採用されるようになった。一方で、記述的アプローチの一つである実証的アプローチが台頭してきたのは1960年代の中頃からである。Ball and Brown [1968]が、会計利益数値が株式市場の投資家に対して有用ではないという帰無仮説を棄却し、会計利益数値が株式市場の投資家に有用であるという対立仮説を採用したことによって、会計情報に関する有用性評価の基本デザインが構築され、アカデミックな領域では、規範的な研究よりも、市場を基礎とする会計研究がメインストリームとなっていったのである。そして1970年代の会計研究は、経済学やファイナンスの理論と実証的な成果を積極的に導入していった。ここまで記載した中でも触れられているが、会計学の世界では、多くの経済学やファイナンスの理論がそのベースとして用いられている。こういった流れの影響を受け、近年では日本においても、実証研究が多くの研究者によって行われるようになった。しかし、日本では依然として規範的アプローチに基づく研究も盛んに行われており、IASBやFASB、ASBJ等が設定した概念フレームワーク(ASBJの概念フレームワークは討議資料のみ)に基づいた規範的研究や、歴史的な観点から会計が果たしてきた役割を分析し、本来のあるべき会計の姿を考察する研究等が行われている。また日本における会計学の領域では、上述したような研究だけでなく、自国や他国の過去、現在、あるいは最新の会計基準・会計理論・会計制度を詳細に調べ、場合によってはそれを特定の基準・理論・制度と比較する研究や、歴史的資料をもとに会計に関する過去の事柄を調査する研究、基準・理論・制度等の変遷をまとめる研究、そして実務を対象とした研究等、様々な研究が行われているため、会計学者の研究スタイルは多岐に及ぶ(中には、哲学や言語学、心理学等の観点から研究を行う学者も存在する)。
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