見つからなかった場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/29 03:48 UTC 版)
それまで誰も着目しなかった領域については、先行研究も存在しないことになる。これは往々にして全く新しい展開を科学の世界に作る物となるが、その場合、その論文を裏付ける事実が他にはないことになる。先行研究なしで学術論文を発表した場合、筆者の思い込みの可能性など、研究テーマの正当性が問題にされることもあり得る。 もっとも、科学の分野において、全く先行研究のない研究論文はなかなか存在しない。これは、一つには科学の研究が技術の向上に基づいていることによる。実験操作にしても、例えば生物の細部の研究は、虫眼鏡から顕微鏡へ、という風に科学技術の進歩と結びついている。従って、新たな展開はそれ以前の技術による研究を土台として行われるものである。普通は全く新しい分野といっても、それまでのすべての分野と無関係に存在するものではないから、少なくとも参考文献は存在するのが普通である。 ただ、先行研究がなかなか見つからず、後になって発見される例もある。有名なのはメンデルの法則で、その発表の40年ほど後に、新発見として発表された後にすでに発表されたものであることが判明した[要出典]。本来ならば彼の研究を先行研究として、それを超える結果を示すべき状況ではあったわけである。もっともこの場合にも、それ以外の多数の交配実験に関する研究は参考にされている。 もう少しややこしいのは、先行研究が別分野にあった場合である。矛盾した表現のようではあるが、例のないことではない。例えば、生物個体数の増加を表すモデルであるロジスティック方程式は、生態学の分野では20世紀初頭にショウジョウバエなどの実験個体群の研究から導き出されたものであるが、実は19世紀にピエール=フランソワ・フェルフルストがすでに発表したものであることが後に判明した[要出典]。これは、彼の研究が人口統計学という同じ現象を扱う別分野であったためである。 奈良大学文学部教授の村上紀夫(日本文化史)は、先行研究が見つからない原因の可能性として、次の4つを提示している。 過去に誰も気づいていない(扱ったことのない)研究テーマである可能性。 難解すぎる、または研究・分析に耐えうる一次資料に乏しく、研究が不可能なテーマである可能性。 既存の研究成果の参照や流用で、結果が大体解ってしまい研究しても意味のないテーマである可能性。 単に探し方に不備があり、先行研究を見付けられなかった(見落としていた)可能性。 この内、1.については先行研究がなくとも研究成果を上げやすく、その研究について先駆的な業績ともなりうるため非常運が良い事例であり、2.3.についても、後の資料増加や研究アプローチの仕方次第では研究成果に繋げられる可能性があるが、4.については研究史整理の失敗で、自身の研究が既に過去の誰かによってなされていたものである可能性が高く、もっとも悲惨な結果に繋がると言う。
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