西洋かぶれ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/05/03 13:50 UTC 版)
西洋かぶれ(せいようかぶれ、西洋気触)とは、西洋の文化・思想・風俗などから過度に影響を受けていること、またはそのような人物を指す日本語の表現である[1]。しばしば、自国・自文化よりも西洋文化を過度に高く評価し、振る舞い、思想、服装、言葉遣いなどを西洋風に似せることを揶揄・批判する語として用いられる。
「かぶれ」は、接尾辞的に用いられる場合、ある事物の影響を受けてその風に染まること、または一時的に熱心になることを意味する[2]。「西洋かぶれ」の初出例としては、内田魯庵『社会百面相』「貴婦人」(1902年)の用例が挙げられている[1]。
概要
西洋かぶれは、単に西洋文化を受容すること一般を指す語ではなく、西洋の文物・制度・思想・生活様式などから過度に影響を受けていると見なされる状態を批判的にいう表現である[1]。「かぶれ」は、ある事物の影響を受けてその風に染まること、または悪く感化されることを意味する語として説明されるため[2]、西洋かぶれという表現にも、単なる西洋文化の愛好ではなく、過度な傾倒や模倣を揶揄する語感が含まれる。
一方で、日本では、幕末から明治期にかけて西洋の制度・学問・服飾・生活様式が急速に導入され、西洋風の装いや言動はしばしば文明開化や近代化の象徴とされた。その一方で、表面的な模倣や気取りは風刺の対象ともなった[3]。そのため「西洋かぶれ」という語は、西洋文化の受容そのものではなく、受容の仕方が表面的、模倣的、気取りと見なされる場合に用いられやすい。
文脈によっては、西洋化、欧化主義、脱亜入欧、和魂洋才など、近代日本における西洋受容をめぐる議論と関連づけて用いられる。また、文学作品や風刺の中では、西洋風の教養・服装・言葉遣いを身につけた人物の気取りや矛盾を示す表現として用いられることがある。夏目漱石『坊つちやん』をめぐる研究でも、赤シャツと呼ばれる登場人物の西洋かぶれを主人公が批判しつつ、主人公自身も西洋手拭いを身につけている点に注目する解釈が示されている[4]。
語義と用法
「西洋かぶれ」は、漢字では「西洋気触」とも表記される。「気触」は本来、皮膚が刺激によって炎症を起こすことを意味するが、転じて、ある思想・流行・文化などの影響を強く受けることを意味するようになった[2]。
この語には、対象への憧れや一時的な熱中を指す比較的軽い用法から、自文化を軽視して外来文化を無批判に称揚する態度を批判する用法まで幅がある。そのため、単純な「西洋文化の愛好」や「国際的志向」と同一視せず、揶揄・批判の語感を伴う表現として扱う必要がある。
近代日本における用例
日本では、幕末から明治期にかけて西洋の制度・学問・服飾・生活様式が急速に導入され、西洋風の装いや言動はしばしば文明開化や近代化の象徴とされた。その一方で、表面的な模倣や気取りは風刺の対象ともなった。
成島柳北の『柳橋新誌』は、薩長の高官や西洋かぶれの書生を風刺し、新時代に対する文明批評を展開した作品とされる[3]。また、内田魯庵『社会百面相』には「西洋かぶれ」の初出例とされる用例が見られる[1]。
夏目漱石の小説『坊つちやん』に登場する教頭の赤シャツは、西洋風の教養や気取りを帯びた人物として読まれることがある。『坊つちやん』をめぐる研究では、赤シャツの西洋かぶれを主人公が批判しつつ、主人公自身も西洋手拭いを身につけている点に注目する解釈が示されている[4]。
関連する表現
ハイカラ
ハイカラは、英語の high collar に由来する語で、明治期には西洋風で目新しいものや、欧米風・都会風を気取ることを指した[5]。西洋かぶれと重なる語感をもつが、必ずしも否定的な意味に限定されず、近代的・洒落たものを指す肯定的な用法もある。
バタ臭い
「バタ臭い」は、バターのにおいがするという原義から転じて、西洋風であること、または西洋かぶれしていることをいう表現である[6]。顔立ち、文章、服装、趣味などについて、西洋風で日本的でない印象を述べる場合に用いられる。
おフランス
「おフランス」は、フランスまたはフランス風のものを、気取りや上品ぶりを含んでいう俗語的表現である。外来語に美化語の「お」を付けた語形の一例として挙げられることがあり、国立国語研究所系の資料では「おズボン」「おニュー」「おリボン」「おビール」「おソース」「おトイレ」などと並んで、「おフランス」が例示されている[7]。
大衆文化では、赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』に登場するイヤミが、「フランス帰り」を自慢する気取った人物として知られる[8]。小学館の辞書サイト「ことばのまど」も、イヤミが「おフランス帰り」を自称し、「〜ざんす」と上品ぶったことを説明している[9]。このような用法において、「おフランス」は、フランス風の気取りや上品ぶりを戯画化する表現として用いられている。
日本国外の文学における類例
西洋文化への過度な傾倒や植民地社会における西洋化の問題は、日本以外の文学でも主題化されてきた。インドネシア文学では、アブドゥル・ムイスの小説『サラー・アスハン』が、日本語で『西洋かぶれ』として紹介されている。同作は1920年代インドネシア文学の代表的作品の一つとされ、村を離れながらオランダ人社会にも入れられず破滅する西洋かぶれの青年官吏の悲劇を描いたものと説明される[10]。日本語訳は『西洋かぶれ 教育を誤って』として1982年に刊行された[11]。
脚注
- 1 2 3 4 “西洋気触”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典. 2026年5月3日閲覧。
- 1 2 3 “気触”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典. 2026年5月3日閲覧。
- 1 2 “柳橋新誌”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典ほか. 2026年5月3日閲覧。
- 1 2 荒木正見 (1999年). “夏目漱石『坊ちゃん』における哲学的背景”. 九州大学. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “ハイカラ”. コトバンク. 精選版 日本国語大辞典. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “バタ臭い”. コトバンク. デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “話し言葉の外来語”. 国立国語研究所 (2019年8月30日). 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “イヤミ”. 赤塚不二夫公認サイト これでいいのだ!!. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “第124回 遊女のアリンス言葉「ざんす」「チャキチャキ」”. ことばのまど. 小学館. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “西洋かぶれ”. コトバンク. 世界大百科事典. 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “隣人をよく知ろうプログラム 日本向け 書籍リスト”. トヨタ財団. 2026年5月3日閲覧。
関連項目
西洋化・近代化
類似表現・俗語
文化受容・異文化観
大衆文化・風刺
西洋かぶれ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 01:42 UTC 版)
大山は西洋かぶれで非常に西洋文化への憧憬が強く、また造詣も深かった。後藤象二郎、西園寺公望らと共に「ルイ・ヴィトンの日本人顧客となった最初の人」として、ヴィトンの顧客名簿に自筆のサインが残っている。捨松との再婚の時の披露宴招待状は全文がフランス語で書かれた物で人々を仰天させたという。陸軍大臣公邸を出たあとに建てた自邸はドイツの古城をモチーフとした物だった。しかし、見た目の趣味はお世辞にもいいとはいえない代物で、ここを訪ねた捨松の旧友アリス・ベーコンにも酷評されている。巌はこの新居に満足していたが、妻・捨松は「あまりにも洋式生活になれると日本の風俗になじめないのでは」と、自分の経験から子供の将来を心配し、子供部屋は和室にしつらえていた。
※この「西洋かぶれ」の解説は、「大山巌」の解説の一部です。
「西洋かぶれ」を含む「大山巌」の記事については、「大山巌」の概要を参照ください。
「西洋かぶれ」の例文・使い方・用例・文例
- 彼は西洋かぶれしている
- 西洋かぶれのページへのリンク
