芳香性シクラメン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/24 03:59 UTC 版)
通常、栽培種のシクラメンは無香性のものか、香りが薄いものが一般的である。前述のとおり栽培種のシクラメンはドイツにおいてC. persicumという種から花が大きく綺麗なものを長年に渡って選抜した結果、香りが徐々に失われていったためである。これは、この種のシクラメンの香気は埃や乾燥した木材のような匂いを発するセスキテルペンという成分が主体であり、一般に悪臭と感じられる事に起因する。 なお、日本では布施明の歌『シクラメンのかほり』(小椋佳作詞・作曲)が1975年(昭和50年)にヒットしたことによって、シクラメンの香気に対する要望が寄せられるようになった。 このため、栽培種のシクラメン農家や育種家らの手によって香りの育成がされてきた。これは、C. persicum種の中に僅かに含まれる香気であるシトロネロールというバラ様の香気成分が突然変異などにより、比較的に多く含まれるものを選抜したものであるが、親の遺伝によって悪臭の原因とされるセスキテルペンの香気成分も残存することが多く、基本的な香り成分の種類には差が少なく、芳香を発するシクラメンを作り出すことは困難であった。 そんな中、1996年(平成8年)に埼玉県農林総合研究センター園芸支所(現園芸研究所)がバイオテクノロジーを用いて、栽培種であるC. persicum種と芳香を有する野生種であるC. purpurascens種との種間交雑 [(2n=2x=48)×(2n=2x=34)=(n=41)] を行い(交配後21日の未熟胚を培養)、種子で増殖可能な交雑種 (2n=82) の2系統の育成(胚培養で得られた個体は不稔のため、組織培養による増殖とコルヒチン処理で染色体数を増やす)に世界で初めて成功した。なお、ペルシカム種を用いた種間交雑種はこれが初めてであるが、異種間交配種は自然交雑種も含めていくつか存在する。 C. purpurascensの原種は、花は小さく地味であるが、バラ様の香気成分であるシトロネロールやシナミルアルコールというヒアシンス様の香気成分、スズラン様の香気成分を発する種である。 この種間交雑により、花や株は一般の園芸種のように大きくなり、香りもこの野生種の芳香が大きな花から多く発せられる、いわゆる「芳香シクラメン」が誕生することとなり、従来の園芸種とは全く違うバラとヒアシンスを合わせたような香気を放つ栽培用シクラメンが一般流通するに至った。 埼玉県により、この芳香シクラメンについて花色の違う3つの品種の育成を行い、雑種第一代として「孤高の香り」(紫)、「麗しの香り」(ピンク)、「香りの舞い」(濃紫)の3つの品種を種苗登録するとともに、これら第一世代の品種を組織培養し、イオンビーム照射でDNAに変異を起こさせることで、親品種と花色の異なる「天女の舞」(サーモンピンク・麗しの香りの変異)、「みやびの舞」(赤紫・香りの舞いの変異)、 「絹の舞」(白・孤高の香りの変異)が生み出された。 これにより、従来花の “色” と “形” の個性しかなかったシクラメンに “香り” という新たな要素が加わり、愛好者の選択肢が広がった。
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