統計力学的取り扱い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/01 08:35 UTC 版)
統計力学はTSTの構築において大きな役割を果たした。しかしながら、19世紀中頃にジェームズ・クラーク・マクスウェル、ルートヴィッヒ・ボルツマン、レオポルト・プファウントラー(英語版)が分子運動と分子速度の統計学的分布の観点から反応平衡と速度について議論した複数の論文を出版した事実を鑑みると、統計力学のTSTへの応用は非常にゆっくりと進展した。 フランスの化学者A. Berthoudがマクスウェル=ボルツマン分布を使って反応速度に関する式 d ln k d T = a − b T R T 2 {\displaystyle {\frac {d\ln k}{dT}}={\frac {a-bT}{RT^{2}}}} (aおよびbはエネルギー項と関連した定数)を得たのは1912年のことだった。 その2年後、ルネ・マルセランは化学反応の進行を位相空間における点の運動として取り扱うことによって本質的な貢献を行った。マルセランは次に、ギブズの統計力学的手順を適用し、以前に熱力学的考察から自身が得ていたものと似た式を得た。 1915年、イギリスの物理学者James Riceが重要な貢献を行った。自身の統計解析に基づき、Riceは反応速度が「critical increment」(臨界増量)に比例すると結論付けた。彼の着想はリチャード・チェイス・トールマンによってさらに発展した。1919年、オーストリアの物理学者カール・フェルディナント・ヘルツフェルト(英語版)は統計力学を平衡定数に、そして運動理論を二原子分子の可逆的解離についての逆反応の速度定数k−1に適用した。 AB ⇌ k − 1 k 1 A + B {\displaystyle {\ce {AB <=>[k_1][k_{-1}] {A}+ {B}}}} ヘルツフェルトは順反応の速度定数に対して以下の式を得た。 k 1 = k B T h ( 1 − e − h ν k B T ) exp ( − E ⊖ R T ) {\displaystyle k_{1}={\frac {k_{\mathrm {B} }T}{h}}\left(1-e^{-{\frac {h\nu }{k_{B}T}}}\right)\exp \left({\frac {-E^{\ominus }}{RT}}\right)} 上式において、 E ⊖ {\displaystyle \textstyle E^{\ominus }} は絶対零度における解離エネルギー、kBはボルツマン定数、hはプランク定数、Tは熱力学的温度、 ν {\displaystyle \nu } は結合の振動周波数である。この式は、TSTの重要な要素である因子kBT/hが速度方程式に初めて登場したことから、非常に重要である。 1920年、アメリカの化学者リチャード・チェイス・トールマンがRiceのcritical incrementの着想をさらに発展させた。トールマンは、反応のcritical increment(現在は活性化エネルギーと呼ばれる)が反応を起こしている全分子の平均エネルギーから全ての反応物分子の平均エネルギーを引いたものに等しいと結論付けた。
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