米国インシデント・マネジメント・システム (NIMS)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/12 03:03 UTC 版)
「インシデント・コマンド・システム」の記事における「米国インシデント・マネジメント・システム (NIMS)」の解説
1993年以降、米国では、単一事業所、地方自治体、州、連邦政府の責任(管轄)範囲を超えた大規模災害が数多く発生した。2001年9.11アメリカ同時多発テロ事件を引き金に、2003年2月にブッシュ大統領が国土安全保障省発行の HSPD-5 に署名し、あらゆる組織で ICS を基とした米国インシデント・マネジメント・システム (NIMS) を採用するよう指令・通達が出された。この中で米国のあらゆる緊急事態で使用しなければならない最も基本的な指揮・命令管理システムとして ICS がその中核に位置付けられた。 NIMS は、ICS に加えて州政府・連邦政府による支援プロセスなども定め、国家として緊急事態に対応するための最も基本的なマニュアルとなっている。また、「ICS、複数機関間の調整法、広報などに関する総合的なアプローチおよび COP などの情報管理や資源管理の基本原則について規定したものであり、大規模災害や特定の緊急事態だけを対象とした対応計画や通信計画ではない」と書かれており、あらゆるハザード(危険要素)に対して、同じ方法でアプローチする(オールハザードアプローチ)ためのマニュアルと位置付けられている。 NIMS は ICS をベースとし、現場と連邦政府との関係は次のとおりとなる。 大小や種類を問わず緊急事態が発生すると現場にまず ICS 組織が立ち上がる。単独指揮の場合も合同指揮の場合もある。現場での作業は迅速性が要求されるので、命令 (Command) によって行われる。 現場での作業に人的勢力や資機材が不足してくると指揮官は、地元の緊急事態センター (EOC) に支援を要求 (Request) する。ここから上は全て調整 (Co-ordination) であり命令ではない。地元の EOC は州の EOC に対して必要に応じて支援を要求するとともに、それでも足りない部分については、連携契約のある近隣の州に支援を要求する。それでも足りない場合は、連邦政府に対して支援を要求する(ボトムアップ)。 そして、これらの支援にあたるために連邦政府の役割を明確化したものが緊急事態支援機能 (Emergency Support Function, ESF) である。これは国家対応フレームワーク (National Response Framework, NRF) に規定されているものであり、必要とされる支援の種類に応じてどの省庁が何をするかについて下記の15の機能 (Functions) ごとに定められている: ESF1: Transportation (輸送支援) ESF2: Communications (通信支援) ESF3: Public Works and Engineering (公共作業・技術支援) ESF4: Firefighting (消防支援) ESF5: Information and Planning (情報および計画支援) ESF6: Mass Care, Emergency Assistance, Housing and Human Services (避難施設支援) ESF7: Logistics Management and Resource Support (補給支援) ESF8: Public Health and Medical Services (公衆衛生支援) ESF9: Search and Rescue (捜索救助支援) ESF10: Oil and Hazardous Materials Response (油および危険物対応支援) ESF11: Agriculture and Natural Resources (農業支援) ESF12: Energy (エネルギー支援) ESF13: Public Safety and Security (公衆安全支援) ESF14: Long Term Community Recovery (長期的復興支援) ESF15: External Affairs (対外調整支援) 日本の防災基本計画のような災害の種類(地震災害、津波災害、風水害、火山災害、雪害、海上災害、航空災害、鉄道災害、道路災害、原子力災害、危険物等災害、大規模火事災害、林野火災)ごとの区分ではない。 このようなボトムアップ的な考え方は、緊急事態においては時間が最も重要な経営資源であり、現場が意思決定することが最も合理的であるという考え方に立っている。 また、災害の種類ごとに対応方法が異っていると関係者がそれぞれの災害ごとの対応方法を個別に理解しておかなくてはならず、現実問題としてその全てを理解することなど不可能であるという考え方からオールハザードアプローチをとり、全ての災害において同じプロセスで対応するという手法を採っている。
※この「米国インシデント・マネジメント・システム (NIMS)」の解説は、「インシデント・コマンド・システム」の解説の一部です。
「米国インシデント・マネジメント・システム (NIMS)」を含む「インシデント・コマンド・システム」の記事については、「インシデント・コマンド・システム」の概要を参照ください。
- 米国インシデント・マネジメント・システムのページへのリンク