竹島(鬱陵島)への渡航禁止
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「竹島一件」の記事における「竹島(鬱陵島)への渡航禁止」の解説
この回答を受けて幕府は竹島(鬱陵島)の本格的な検討を始め、1695年(元禄8年)12月24日、老中・阿部豊後守は因幡国(因州)・伯耆国(伯州)の2国を領有する鳥取藩(現在の鳥取県)に対し17カ条からなる「御尋の御書付」で問い合わせた。そのなかで注目される質問が以下である。 「因州 伯州之付候竹嶋はいつの此より両国之附属候哉、先祖領地 被下候以前よりの儀 候哉」 (因幡国伯耆国付属の竹島はいつの頃より両国の付属になったのでしょうか、先祖の領地になる以前についてはどうなのでしょうか。) 「竹嶋の外両国之附属の嶋有之候哉、並是又 漁採に両国の者 参候哉」 (竹島の他に両国の付属の島はあるのでしょうか、又、漁に両国の者が行っているのでしょうか。) この幕府の質問に対して鳥取藩は、1695年(元禄8年)12月25日付の文書で回答する。 「竹嶋は因幡 伯耆附属にては無御座候」(竹島は因幡国伯耆国付属ではございません。) 「竹嶋松嶋其外両国之付属の嶋 無御座候」(竹島松島その他は両国の付属ではございません。) このように、鳥取藩は竹島・松島は自藩領ではないとしたが、1724年に鳥取藩が幕府に提出した「竹嶋之書附」では松島を「隠岐の内」としており、この時鳥取藩は松島を江戸幕府の直轄領である隠岐国の島だと認識している。 江戸幕府は「鬱陵島には我が国の人間が定住しているわけでもなく、同島までの距離は朝鮮から近く伯耆からは遠い。無用の小島をめぐって隣国との好を失うのは得策ではない。鬱陵島を日本領にしたわけではないので、ただ渡海を禁じればよい」と朝鮮との友好関係を尊重して、日本人の鬱陵島への渡海を禁止することを決定して鳥取藩に指示するとともに朝鮮側に伝えるよう対馬藩に命じた。幕府はその島に日本人が住んでいないこと、さらに地理的に因幡からよりは朝鮮からの方が近いことなどを考慮し、朝鮮との争いを避けることにしたのである。 「竹島一件」といわれている日朝間の外交交渉は、釜山の倭館を舞台に3年間続けられ、この時「兵威」を用いて竹島(鬱陵島)を日本領にする案もあったが、結局は竹島(鬱陵島)を放棄することとなった。そして1696年(元禄9年)1月28日付で、幕府が老中の連署でもって、「向後 竹島へ渡航之儀 制禁 可申付旨 被仰出之候間」と、鳥取藩主松平伯耆守(池田綱清)宛てに竹島渡航禁止を申し渡し、8月1日に鳥取藩に伝えられた。竹島(鬱陵島)を「無用の小島」として鳥取藩に同島への渡海禁止を申し渡したのである。また先に竹島渡海を免許していた大谷・村川両家に対しても、同時に松平伯耆守あてに奉書を送り、竹島(鬱陵島)への渡海を禁じた。対馬藩に対しても、この幕府の姿勢を朝鮮政府に伝えるように指示し、対馬藩は1696年(元禄9年)10月、新藩主を祝うために来島していた同知(通訳官の官職)の卞延郁同知と宋裕養判事に其の方針を伝えた。両通訳官は翌年の1697年(元禄10年・粛宗23年)正月に帰国し、続いて対馬藩は二月に、阿比留兵衛を朝鮮に渡らせ、東莱府使 李世戴に書を渡して、幕府の命により日本人の竹島(鬱陵島)への出漁を禁じた事を知らせた。 ただし、鬱陵島と竹島が同一の島である事、およびその朝鮮領たることを承認する件については言及しなかった。しかし、朝鮮政府は、当面の問題であった漁業禁止に満足して、翌1698年(元禄11年)3月、礼曹参議李善溥の名をもって幕閣の決定に謝意を表し、併せて鬱陵島・竹島一島二名の理由を説明した。(「粛宗実録」二十四年三月二十五日の条) 渡航禁止の全文 先年松平新太郎因州伯州領知之節相窺之伯州米子之町人村川市兵衛大屋(大谷)甚吉竹嶋江渡海至爾今雖致漁候向後竹島江渡海之儀制禁可申付旨被仰出之候間可被存其趣候 恐々謹言 正月廿八日 土屋相模守 阿部豊後守 大久保加賀守 松平伯耆守殿右御奉書之趣村川大屋両人江 申聞竹島渡海相止候事 1693年(元禄6年)4月に安龍福たちを米子に連れ帰った事から始まった竹島一件は、姑息ながらも一応の解決をする事になったが、その際、幕府は松島については何も言及していない。この時、松島はもともと日本から竹島(鬱陵島)への中継となるただの小島であったため、朝鮮との交渉でも特段の取扱いはしておらず、特に言及する必要もなかったと考えられる。そのため竹島(鬱陵島)渡航禁止以後、独自の経済的価値がほとんどない松島だけのために渡航する者は幕末までほとんどなくなってしまった。
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