神経症候学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/29 21:21 UTC 版)
糖尿病性多発神経障害の症状は感覚障害であることが多い。進行すると自律神経機能障害が現れはじめ、筋力低下を訴える患者はごく少数の進行期の患者に限られる。しかし末梢神経伝導速度検査では初期からF波の潜時延長が認められるため神経障害自体は早期から出現していると考えられる。自律神経徴候や筋力低下が出現しにくい理由については何らかの症状抑制機構が働いているという考えもある。 感覚障害 初期症状としては足先や足裏の異常感覚が多い。多少の左右差はあっても両足の対称性に認められる。皮膚に触れるとザラザラ、ビリビリする錯感覚もみられる。これらは残存神経や再生神経の異常な神経インパルスの結果である。足底が薄皮で覆われたような感覚鈍麻は陰性症状であり神経線維現象を反映した症状である。初期の感覚障害は足に限局するが、進行すると靴下型になりさらに進行すると手袋靴下型になる。 運動障害 運動神経神経線維は感覚神経線維と同様に初期から障害されるが糖尿病性多発神経障害で筋力低下が初期から目立つことはない。運動神経の緩徐変性では生存運動神経線維による脱神経筋線維再支配が有効に作用するためである。つまり、筋力低下は筋力維持機構破綻の結果であり、進行した患者に限られる。遠位部優位性障害の糖尿病性多発神経障害で運動神経系の破綻が最初にみられるのは足部の筋である。特に短趾伸筋の萎縮はアキレス腱反射低下や振動覚低下と同様の重要な無症候性徴候である。足趾を背屈させて短趾伸筋が確認できなければ萎縮していると考えられる。 自律神経障害 糖尿病性多発神経障害では全身の自律神経徴候が認められる。生命予後の短縮に深く関連するのは起立性低血圧などの心血管系異常、激しい下痢や頑固な便秘、胃麻痺などの消化器系徴候、排尿困難や残尿などの泌尿器系異常である。糖尿病性多発神経障害で独自の症状として無自覚性低血糖があげられる。 有痛性神経障害 糖尿病性多発神経障害の経過中に四肢や体幹の激しい疼痛をきたす状態である。著明な体重減少を伴う場合やインスリン治療で血糖やヘモグロビンA1cを急速に低下させた場合に多い。多くは触覚で疼痛が生じる激しい錯疼痛を呈する。足を床に置くだけで激しく痛み、苦痛のために歩行不能となる。疼痛は数ヶ月から1年続き、自然消退するが高度の感覚鈍麻が残る。
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