生化学的な(酵素利用による)合成法の研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/28 15:21 UTC 版)
「クルクミン」の記事における「生化学的な(酵素利用による)合成法の研究」の解説
従来の植物(栽培されたウコン等)からの抽出法、石油資源由来の炭素源を元にする化学合成法に加えて、他の植物ポリフェノールと同じように微生物による生産法の研究も進められている(上記の生合成経路の判明により、本格的な検討が可能となってきた)。微生物による生産は、従来法と比べて大量生産(スケールアップ)が可能であったり、出発基質の変更による改良された派生物質の生産、産業廃棄物(米糠)の有効利用などの点について、利点が見いだせると言われている。 クルクミンは、芳香族ポリケチド(ポリケタイド)に分類される。ここでいうポリケチドとは、アセチルCoAなどのCoAエステル(もしくはACP体)を出発基質とし、マロニルCoAを代表物質とする伸張鎖基質を伸張物質として、ポリケトン鎖を合成(縮合反応)した後、様々な修飾を受けて生合成される化合物の総称である(詳しくはポリケチドの項を参照)。代表的なポリケチドとしては、エリスロマイシン、ピクロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、ラパマイシンなどのポリエン系抗生物質、芳香族ポリケチド(ポリフェノール)、ウバリシンなどの抗癌作用物質があげられる。 また、ポリケチドはポリケチド合成酵素(PKS)を触媒として生合成される。PKSにはI型、II型、III型の3種類が存在するが、III型PKSとは植物の中でポリケタイドという成分が作られる時に働く酵素の総称となる(植物からは、さまざまな種類のポリケタイドを作るさまざまな種類の酵素が見つかっており、構造や性質が似ているこれらの酵素をIII型PKSと総称している)。 III型PKSとしては、カルコン合成酵素(CHS)が代表的であるが、ウコン中でクルクミンが作られる時に働く酵素は、DCS(英: diketide CoA synthase;ジケチドCoA生合成酵素)と、CURS(英: curcumin synthease;クルクミン生合成酵素)の2種類の酵素が働いて、クルクミンを作っている可能性が高いことが報告されている(なお、通常のマロニルCoAを伸張物質とするIII型PKSと違い、CURSはマロニルCoAではない物質(フェルロイルCoA)を付加する珍しい酵素である)。 クルクミンを合成する酵素は、現在までにDCSで1つ、CURSで3つの遺伝子が単離されている。これは、当初、全ゲノム解析の行われていたイネゲノム中で、約30種類の機能未知なカルコン合成酵素様遺伝子を網羅的に解析していた過程で、クルクミノイド合成酵素として報告されてきた遺伝子である。その情報を元にして、上記のウコンでの生合成経路の探索も進められていった。上記の知見で得られた酵素を利用し、工業微生物と安価な基質(産業廃棄物としての米糠)を用いた生産工程も研究されている。
※この「生化学的な(酵素利用による)合成法の研究」の解説は、「クルクミン」の解説の一部です。
「生化学的な(酵素利用による)合成法の研究」を含む「クルクミン」の記事については、「クルクミン」の概要を参照ください。
- 生化学的な合成法の研究のページへのリンク