理論展開と他の分野への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/11 03:33 UTC 版)
「オートポイエーシス」の記事における「理論展開と他の分野への応用」の解説
こうしたオートポイエーシスの概念は、当初、形式的な記述をまったく用いずに展開された。 その後、主としてバレーラと共同研究者らによって、さまざまな数学的概念や形式モデルを用いた研究が行なわれたが、形式的な意味における理論の明確化と発展がなされてきたとは言い難い。 このためもあり、要素還元主義を徹底させ分子生物学の時代を迎えた生物学に対してオートポイエーシスが与えた影響は現在のところわずかなものに留まる。 この概念はむしろ、そのシステム論的斬新さから、システム論、情報学、心理療法、経営管理など、生物学以外の分野において広く引用されるところとなっている。 システム論的には、既存のシステム論が、環境内でのシステムの調整機構についてのみ言及し、システムの環境外およびシステムの自己言及を等閑視していたという限界を打破しようとする試みとして受け取られた。 またとりわけ、パーソンズの構造機能主義を逆転させ、一般システム理論の影響下に自己準拠的社会システム論を模索していたドイツの社会学者、ニクラス・ルーマンがこの概念をコミュニケーションを構成要素とする円環的システムを表すものとして社会システム理論に援用したことは、オートポイエーシスの概念が広く人文・社会科学に知られるきっかけとなった。 一方、河本英夫は、動的平衡システム、動的非平衡システムに代わるシステム概念として、オートポイエーシスを元にした新たなシステム論を展開している。 一方で、バレーラは、オートポイエーシスという用語は本来の産出関係が認められる細胞・免疫・神経システムに限定して用いられるべきであって、そのより一般的なシステム論的本質は単にオートノミー (自律性) と称されるべきだと主張している。 オートポイエーシスは、「真の自律性をコード化することは可能か?」といった観点から哲学的に様々な議論が行われている最中であるが、1974年の提唱者らの研究によれば、少なくともSCLモデルとしてコード化し、シミュレーションを行うことは可能とされている。 生命の究極の原理と目されるオートポイエーシスのコード化可能性についての議論は、社会へのAI応用が進むにつれて現実的な課題になりつつ有り、人工知能においては生命の脳の構造をコンピュータ上に複写するだけでは自律性として不十分か否か,人工生命においては、真に自律的な人工生命はソフトウェア化可能か否かという課題に関わって来ている。AI進化の先にあると喧伝されているシンギュラリティの実現についても、オートポイエーシスのコード化が不可能であることを前提に置いた批判が提出されている。
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