片道速度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/15 00:35 UTC 版)
往復路にわたる平均速度は測定可能であるが、ある方向への片道速度については、二つの別々の地点での「同時」とは何であるかを定義しない限り、未定義のままである。光がある場所から別の場所へと進むのにかかった時間を測定するには、出発時刻と到着時刻を同じ時間尺度で測定する必要がある。これを実現するためには、二つの同期した時計を出発地点と到着地点それぞれに置くか、出発地点から到着地点まで瞬時に何らかの手段で出発時刻に関する信号を送るかのどちらかが必要となる。ある情報を、瞬間的に移送する手段は知られていない(光速を超える情報伝搬の手段自体、一般的には存在しないと考えられている)。それゆえ、片道の平均速度の測定値はいつも出発地点と到着地点の時計の同期に用いられた方法に依存しており、人間の側で恣意的に定義を決める話となっているのである。ローレンツ変換は、光の片道速度が慣性系の選び方と独立に測定されるように定義されている。 MansouriやSexl (1977)またClifford Will (1992)は、ある特定の(エーテル)座標系Σに対する相対的な方向依存性の変化を考えるなどすれば、この問題は光の片道速度の等方性の測定に影響しないと主張した。彼らの分析はRMS検証理論の、光の片道路を測る実験や遅い時計輸送の実験との関係における特定の解釈に基づいている。Willは同期法なしに光の光行時間を用いて二つの時計の間の片道速度を測定することは不可能であるとしているが、「...伝搬路の方向がΣ系に対して変化するときの、同じ二つの時計の間の速度の等方性の検証は、それらがどのように同期されたかによらないはずである」と主張している。彼はアドホックな仮説を紹介することによって、エーテル理論だけが相対性と整合をとることができると加えている。 また最近の論文(2005, 2006)でWillはそれらの実験を「片道伝搬を用いた光速の等方性」を測定するものと呼んでいる。 しかし他の、Zhang (1995, 1997) やAnderson et al. (1998)などは、この解釈が誤りであると示している。例えば、Anderson et al.は、ある特定の座標系を選ぶ時点で既に同時性についての恣意的決定がなされており、その座標系における光の片道速度や他の速度の等方性に関する全ての仮定もまた恣意的決定であることを指摘している。それゆえ、RMS理論はローレンツ不変性と光の往復速度について分析するのに有用な検証理論に留まっており、光の片道速度についてはそうではない。彼らは「...光の片道速度の等方性については、同一の実験内で、原理的には少なくとも片道速度の数値を導出しなくては検証する望みがないが、それは同期法に関する恣意性と矛盾することになる」と結論付けている。 ローレンツ変換の、片道速度に関する非等方性を考慮した一般化を用いて、ZhangとAndersonはローレンツ変換と光の片道速度の等方性に整合する全ての事象と実験結果が、光の往復速度の一定性と等方性を保ったまま、片道速度の非等方性を許すものとも整合することを指摘した。
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