横浜市立図書館での事例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/24 01:32 UTC 版)
公立図書館の利用者からのクレーム・要望として、自己の経済力や社会的地位を超えた要求がある。これは、公立図書館の無料利用の原則(図書館法第17条)の建前への依存によるものである。その中でも上位に挙がるのが、図書館資料の複写を一部分しか行えないことや、著作権法上の要件を満たした複写依頼であるかを審査するために必要な、複写申込書の提出などの手続における手間である。複写サービスをめぐる利用者と図書館員とのトラブルは日常的にあり、その原因として著作権法が大方の国民に馴染みがないことが指摘されている。 横浜市立図書館では、このようなクレーム・要望に対して、 「平成11年4月から、長年、市立図書館で行ってきた著作権法第31条による調査研究の用に供する複写はそのまま行いつつ、著作権法第30条による私的使用のための複写も館内でできるように」 とした。その理由として同図書館は、 「街中に複写機が溢れ、コンビニ等で気軽に複写が可能になり、図書館への特別な措置として著作者の権利を制限したものであったはずの第31条が、利用者にとっては複写への規制の方が大きく、制限がより意識されるようになったため」 としている。また、この運用により、以下のメリットが生じると説明している。 「この複写機の設置により、持ち込み資料の複写も可能になるとともに、資料の無断持ち出しや切り抜き等の不正利用から、所蔵資料を守ることもできる」 この回答に対して、前記質問をした市民から 「前回回答では、コンビニ等でのコピーと比較していますが、コンビニ等では、100パーセント持ち込み資料のコピーであり、万一店内の本や雑誌をコピーしようとすれば、店員に止められるでしょう。図書館のコピーはほぼ100パーセント館内資料のコピーなので、一概にコンビニ等と同一視はできないと思います」 との疑問が出された。同図書館からは、 「著作権法第31条の制定当時に比べて、格段に複写機が普及し、気軽に複写ができるようになった現在では、私的使用のための利用が圧倒的に多くなったことや、手続が煩わしい、持ち込み資料の複写はできないといった苦情が多く寄せられていたことを受けての措置」 であり、 「複写をする際に問題なのは、どこに設置された複写機であるかではなく、使用者一人ひとりが著作権法の趣旨を理解し、自らの責任で複写をすることだと考えています」 との回答がなされている。 しかし、同一の図書館で著作権法30条と31条を併用して資料を複写できるいう考え方自体、公的な場である図書館での複写と、暫定措置として認められるコンビニでの複写を混同しているものといえ、法律の解釈・運用上破綻していると思われる。 また、著作権法を理由に複写を行えないことについて苦情を寄せる者に、「使用者一人ひとりが著作権法の趣旨を理解し、自らの責任で複写をすること」を期待するのは、困難と考えられる。 以上のような横浜市立図書館による複写サービスについては、図書館側として南亮一が、出版社側として松本功が論考を出している。南が「「勇気ある」決断」としているのに対して、松本は「利用者の過剰な要望に応対する図書館の実状」としている。また社団法人日本複写権センターが批判している。 南亮一「横浜市立図書館の「勇気ある」決断 ―著作権法第30条によるコピーサービスの実施―」カレントアウェアネスNo.248(2000) 松本功「横浜市立図書館18館でセルフコピーサービスを導入 著作権法31条に抵触か」新文化2001.2.15号 (社)日本複写権センター「オピニオン/図書館におけるコピーサービス」コピライト477号(2001) 67-68頁
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