桃の節句と白酒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/19 14:44 UTC 版)
かつて人間の寿命が短かった時代においては、五節句は人生の重要な節目として扱われていた。女の子の成長を祝う行事としての桃の節句は五節句の1つで、日本で古くから伝わってきた人形(ひとがた)信仰と、中国の上巳の節句が結びついて生まれたものといわれる。日本の人形信仰は、紙や草を材料として作った人形で体を撫でて穢れを人形に移して祓い、その人形を川や海に流す風習で「流し雛」の原型とされる。 中国での上巳の節句は、3月で最初の巳の日に行われていた。この日には川で身を清めて不浄を祓い、桃の花弁を入れた桃花酒(とうかしゅ)を飲むならわしがあった。桃の花には魔や穢れを祓う力があると伝わっていて、中国では神聖な木として崇められていた。ただし、日本人の味覚に桃花酒はなじまず、江戸時代からは雛祭りに白酒を飲むようになったという。桃の花には白いものがなく、すべてピンク色である。そこで桃の花色に対して白酒を用いて赤と白の対比で日と月を祀る象徴にしたと伝わる。 白酒の色は邪気を祓うとされ、縁起物として扱われる。古来の製法は、上酒に蒸した糯米を加え、さらには麹も加えて仕込んだ上で7日ほど熟成させてからすりつぶしたものを濾さずに飲用とした。現在の製法に近づいたのは江戸時代中期以降で、焼酎もしくはみりんをベースに製造されるようになった。出来上がったものは甘みがあり、濃厚で白く濁っている。甘い味は下戸、婦人、子供の飲むものと評される。色白く絹を練ったようにすべすべとしていたので「練絹の酒」とも呼ばれ、「初霜」、「雪月花」などの別名でも呼ばれていた。 農学者で東京農業大学名誉教授の小泉武夫は雛祭りに白酒が用いられるようになった理由について、甘い味で女性向けということだけではなく、「白酒の色」が持つ意味にも言及している。白酒の「白」は花嫁の角隠しや白無垢などのように純粋無垢を表す色であり、白をテーマカラーとするのが女性のお祭りの特徴とする。昔の子供は、初節句を迎えることもなく死んでしまうことが多かった。子供が無事に冬を越して初節句を迎えることができればもう大丈夫であろうということで、桃(百百)の花びらを白酒に浮かべて飲ませた。これは、「百歳(ももとせ)」生きるようにという願いを含んだ習わしでもあった。
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