日本の高山植物の起源
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「日本の高山植物相」の記事における「日本の高山植物の起源」の解説
日本が属する北東アジアには、北緯65度から70度以北の寒帯が属する北極及び亜北極植物区系、北緯48度付近から北緯65度から70度付近の北方帯が属するヨーロッパ・シベリア植物区系、北緯30度付近から48度付近までの温帯の植物相に当たる東アジア植物区系などが見られる。日本の高山植物は北極及び亜北極植物区系、ヨーロッパ・シベリア植物区系に由来を持つと考えられる北方系の植物が主流であるが、温帯である中国、ヒマラヤなどの東アジア植物区系との関連も強い。日本周辺の低山帯の種が高山に適応した例や、中新世以降、最終氷期以前という古い時代から日本の高山帯に生存し続けている遺存種もなども見られる。そして日本の高山植物の主流である北方系の植物分布は、最終氷期やそれ以降の気候変動、そして第四紀の火山活動の影響を受けている。日本の高山植物は極地やシベリアなど北極及び亜北極や北方帯を起源とする植物に、東アジアの低山帯起源の植物が混在し、氷期や間氷期といった気候変動や火山活動など影響されながら育まれてきた。 日本列島は周囲を海に囲まれた島孤であり、全体的に湿潤な気候である。日本と同じような島弧であるサハリン、千島列島や、周囲を海で囲まれたカムチャッカ半島などもやはり比較的湿潤であり、日本と同じく雪が多い。アオノツガザクラ、イワイチョウ、ハクサンコザクラなど、雪田や高層湿原のような湿った環境に生育する高山植物は、サハリン、千島列島、カムチャッカ半島そしてアリューシャン列島を経て北米西部までという太平洋沿岸に分布している種と共通する種が多く、またこれらの種は北海道から本州日本海側の高山という多雪地帯に分布の中心が見られる。 一方、比較的乾燥した環境である風衝低木林や草原、崩壊地などに生育するイワウメ、エゾツツジ、チシマギキョウ、コマクサ、タカネスミレなどは、サハリンやカムチャッカ半島から東シベリアに分布の中心がある種が多い。これらの種の中にベーリング海峡を越えてアラスカにまで分布を広げている種もあるが、種の分布の中心はサハリン、カムチャッカ半島から東シベリアにかけてである。 日本の高山植物の起源で最も多いと考えられるのが、周北極要素と呼ばれる北極及び亜北極植物区系の植物である。これらの種は更新世の寒冷期である氷期に、北極付近から日本列島へ南下してきた種であると考えられ、ムカゴトラノオ、クモマキンポウゲ、ガンコウラン、クロマメノキ、ミネズオウなどがある。周北極要素の高山植物には、ガンコウラン、クモマキンポウゲなどのように高緯度では連続分布、低緯度では隔離分布を示す種もあり、更新世の氷河時代に分布を広げ、氷期が終わった完新世となって温暖化するにつれて低緯度では分布が縮小し、隔離分布をするようになったと考えられている。 また主に低山に分布するアキノキリンソウは高山帯ではミヤマアキノキリンソウとなっており、これはもともと温帯である低山の植物であるアキノキリンソウが高地帯にまで分布を拡大したものと考えられている。同じような植物としてはタカネマツムシソウ、ハクサンシャジン、タカネビランジなどが挙げられ、皆、東アジア植物区系である低山帯から高山へと分布を拡大したと考えられる。そしてシレトコスミレやオゼソウのように、現在のところその起源がはっきりしていない高山植物もある。 そして日本やその周辺の高山などに隔離分布するキタダケソウ属のように、最終氷期以前という古い時代に日本列島にやって来て、現在まで生き残り続けていると考えられる高山植物もある。藤井 (2008) などによる最近のDNA解析によれば、本州中部の高山帯に分布するヨツバシオガマなども最終氷期以前の古い時代に日本列島へやって来て、現在まで生き残り続けている遺存種であるとの研究結果が発表されている。
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