就業規則との兼ね合い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/22 02:40 UTC 版)
「自己都合退職」の記事における「就業規則との兼ね合い」の解説
労働基準法第89条(作成及び届出の義務) 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。(略) (略) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) (以下略) 就業規則には退職に関する事項を定めなければならず(労働基準法第89条)、退職の申し出を2週間よりも前に申し出るべきこととすることがある。 退職にさいして係長以上の役付者は6ケ月以前の退職願の届出、会社の許可を必要とする旨の就業規則を有する会社の企画係長が、退職願を提出してから約3ケ月勤務した後に退職し、退職金等を請求した事例(高野メリヤス事件、東京地判昭和51.10.29判時841号102頁)において、民法627条に抵触する部分については無効であり、民法627条に従い14日経過後に退職は成立するとした。一方では大室木工所事件において、「民法第627条第1項を排除する特約は無制限に許容するべきではなく、労働者の解約の自由を不当に制限しない限度においてはその効力を認めるべきであるから、労働者の退職には使用者の承認を要する旨の特約は、労働者の退職申し立てを承認しない合理的な理由がある場合の外は、使用者はその承認を拒否しえないという限度でその効力を認めるべき」(昭37.4.23 浦和地決熊谷支部)という裁判例があるが、本裁判例は就業規則の退職予告期間そのものを争点とした裁判ではなく、就業規則の予告期間を優先とするという内容の判例ではないため、予告期間において就業規則を優先とする判例はないが、どんな特約でも全面的に否定するという判例もない。実際には個々の事例に即して判断するほかはないが、実務上は、就業規則の法規範性を肯定した最高裁判決(秋北バス事件)に則り、特約(就業規則)が優先するという見解に立つものが多い。 また、就業規則ではなく労働者が使用者と労働契約書などで個別合意して退職の申し出を14日前以上に申し出るべきこととした場合、民法627条を任意規定と解して個別合意の予告期間を特約として効力が生じるかという問題もある。 また、労働基準法20条の解雇予告期間との均衡から、就業規則による予告期間延長を1か月までは有効と解する極めて少数の見解もあるが、労働基準法の解雇予告期間は、労働者にとっては突然解雇されれば賃金を得られず生活ができなくなるという重要性にかんがみ必要とされているものであり、使用者の経営上の利害と労働者の生活上の重要性を同列に論じるべきではないこと、本来労働者を保護する趣旨である労働基準法20条の規定が結果的に労働者を拘束し、労働者の退職のさいに不利に作用する根拠となり、労働基準法20条がために就業規則で1か月の退職予告期間を強いられるのは問題である、労働基準法20条は使用者を拘束する規定であり、(直接的であれ間接的であれ)労働者側を拘束する規定ではない、等の問題点や矛盾が生じることから当解釈(労働基準法20条を根拠として1か月は有効という解釈)は無理があり、一般的には全く受け入れられていない。
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