小児への適用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 08:57 UTC 版)
妊孕性の温存は将来の生活の質の向上にとって大切なことであるが、思春期の子供に対して行う場合は、思春期の性にかかわる非常にデリケートな問題となる。 女性の妊孕性温存においては未成熟の卵胞組織から挙児に至った臨床事例もあるものの、男性の妊孕性温存においては、精巣組織の凍結保存による挙児に成功した臨床事例がいまだ存在せず、化学療法やホルモン療法に対しては防護の方法もない。男性の妊孕性温存は射精可能な状態に成熟した精子の凍結保存が2020年現在においても唯一の手段であり、思春期以前の男児では成熟精子が存在しないため、適用可能な妊孕性温存療法が存在しないのが現状である。 すなわち、治療開始までに成熟精子を採取できなければ挙児の可能性を永久に失うことをも意味するため、国や地域によっては、精通経験のない思春期初期の男児に対しても精子採取の可能性を探ることがある。睾丸の成熟がどの程度進んでいれば精子を採取可能かについて定まった報告はないが、タナー段階2度 (思春期初期, 到達平均:11.64歳) では 3例中全例で精子採取が不可能,3度 (到達平均:12.85歳) では9例中4例で精子採取が可能であった という報告があり、それによると、精子採取に成功した最年少はマスターベーションや夢精による射精の経験のない12.7歳、タナー段階3度の患児であり、電気刺激による射精によって精子を採取した。 米国の臨床現場では医療関係者から患者本人や保護者に対して詳細な説明が行われるほか、マスターベーションの具体的方法を教えて大人の監督下で実行させたり、医師が手やバイブレーターを使って陰茎を刺激したり、または直腸に挿入した電極から前立腺を電気刺激して強制射精させるなどして精液を採取することもある。 獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター助教で男性不妊治療や生殖補助医療を専門とする泌尿器科医の岩端威之によると、成長に個人差はあるが、患者が11歳~12歳以上の男児なら、親は知らなくても射精を経験している子は少なくなく、小学生であっても、射精によって精子を採取することが可能であることが多いとし、11歳以上であれば治療開始前に精子の保存について相談すべきとしている。 いっぽう、マスターベーションによって射精を迎えるためには、性的情景を想像したり、性器への刺激を加減してオーガズムに至り快感を得る経験と試行が必要である。日常的にマスターベーションをしていれば採精に困難は生じないが、マスターベーションの経験がない場合、性器官が充分に射精可能な状態に成熟し精通を迎えていたとしても、ただ知識として方法を教授されればすぐに射精できるわけではない。高校生であってもマスターベーションによる精液採取が困難な例も存在する。 家庭などで精液を採取し、家族が医療機関に持ち込むことも可能であり、精液の酸化や精子の劣化を防ぐ透明な採精容器を全国のがん専門病院等に配置している。
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