導入後と影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/22 09:55 UTC 版)
「監査に関する品質管理基準」の記事における「導入後と影響」の解説
品質管理基準設定当時の企業会計審議会監査部会長であった山浦久司は、品質管理基準設定の影響について次のように述べた。すなわち、品質管理基準の設定によって、監査法人では、品質管理を行うために、かなりの人員や組織を要するようになり、また、監査実務においては、品質管理のために監査内容を文書化することに多くの手数が必要となることが予測されると語っている。そして、小規模な監査事務所ではそれ相応の品質管理システムしか用意できないのは仕方がないにしても、社会的影響の大きい上場会社の監査を行うような監査事務所では、品質管理基準に従った高度な品質管理システムが存在することが必須であるとしていた。品質管理基準が公表される3日前の2005年10月28日には、日本公認会計士協会が会長声明として、「新たに設定される監査に関する品質管理基準への対応」を行うことを言明し、品質管理レビューを通して監査法人などに品質管理基準を遵守させることなどを発表した。 ところが、品質管理基準公表の翌年の2006年、相次ぐ監査不祥事を受けて、公認会計士・監査審査会はいわゆる4大監査法人を対象に緊急検査を実施することとなり、「4大監査法人の監査の品質管理について」として検査結果を明らかにした。その検査結果によれば、4大監査法人のいずれも、品質管理基準の求める水準の品質管理を行えていなかった。この結果について、元公認会計士の細野祐二は、「4大監査法人でさえ、所定の品質管理基準を満たしていないのであるから、現在の日本においては社会の求める良好な品質基準を満たす監査法人はただの1つもな」かったということを意味すると評している。 そうしたなか、2007年度からは日本公認会計士協会は「上場会社監査事務所登録制度」を開始している。上場企業を監査する監査事務所は、この制度による登録を受けることが義務付けられるが、その場合、品質管理基準に基づいた品質管理体制を構築し、公認会計士協会の品質管理レビューを受けなければならない。そして、品質管理基準を遵守できない場合、登録抹消処分を受けることもありうることとなった。 こうした状況を受けて、大手監査法人では、品質管理担当の代表社員が置かれ、数十人もの公認会計士が品質管理部門に専従することとなっている。また、より小規模な監査事務所でも、品質管理担当の公認会計士を必要とすることとなった。しかし、こうした品質管理基準に基づく品質管理体制の整備は、監査事務所に多大な負担を強いたという。そして、多くの監査事務所が、品質管理体制の不備が露呈しないように、監査リスクが高水準のクライアントとの監査契約を解除するか、あるいはそもそも上場企業の監査を行うことを諦め、上場会社監査事務所登録制度による登録そのものを辞退するという結果につながっていった。細野祐二は、このような事情があるため、品質管理基準の求める品質管理体制の維持の結果として、監査を受けることのできない企業(いわゆる監査難民)が増加することになるだろうと述べている。 その一方で、品質管理基準には監査事務所間の引継についての規定が存在したにも関わらず、2011年のオリンパス事件では、前任と後任の監査法人の間で引継が適切に行われていなかったために、大手監査法人が金融庁の処分を受ける事態となった。品質管理基準導入後も、このオリンパス事件や、大王製紙事件などのように、監査不祥事の発生が止まなかったことから、2012年には、企業会計審議会によって、監査基準の改訂や不正リスク対応基準の新設が行われている。
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