大王製紙事件とは? わかりやすく解説

大王製紙事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/27 08:14 UTC 版)

大王製紙事件(だいおうせいしじけん)とは、2011年に発覚した背任事件[1][2][3]

日本の大手製紙会社「大王製紙」の創業家出身であり、当時の代表取締役会長であった井川意高が、2010年4月から翌年9月にかけて大王製紙のグループ会社から106億円[4]にのぼる資金を不正に引き出し、井川個人がカジノで遊興する際の掛け金に流用した事件である。事件発覚により井川は会長を辞任し、後日大王製紙から刑事告発を受け、特別背任罪で逮捕された。

経緯

大王製紙の創業家出身の経営者である井川意高が、2010年4月から2011年9月までの総額で106億円を子会社から引き出し、約50億円近い未返済融資が残っていた。

これらの融資の多くは、各子会社での取締役会の決議や貸借契約書を作成されないまま実施されるなどずさんなものであったが、融資先である井川による使途も不明なままであった[5]。2011年9月16日にこの問題が発覚し、井川意高は代表取締役会長を辞任。

その後、大王製紙は社内に特別調査委員会を設置して調査。同年10月28日に調査報告書を発表し、前会長の巨額借り入れ問題について「前会長である井川意高と、実父で元社長の井川高雄の父子には絶対的に服従するという企業風土が根付き、問題発生の基盤となった」と指摘。これを受けて大王製紙は井川意高の顧問職を解任、前会長の実弟の井川高博取締役も担当職を解任し、創業家一族は経営の主要ポストから外れた。また、社長の佐光正義が3か月減俸など役員らの社内処分も決定した。

この過程で元会長の井川意高は、子会社からの借入金のほとんどをマカオシンガポールなどのカジノで浪費していたことが報道された。2011年11月22日に井川が弁護士を通じてマスコミに発した文書で「個人的な金融取引で多大な損失を出した後、たまたま訪れたカジノで儲けたことで、深みにはまったもの」と動機を語った。

事件が公になった後、大王製紙は井川を刑事告発する準備をすすめ、翌10月には東京地方検察庁特別捜査部特別背任容疑で捜査に着手することが報じられた[5]。同年11月21日、大王製紙は井川が子会社7社から合計85億8,000万円を不正に借り入れたとして告発

翌年11月22日、2011年7月から9月にかけて、取締役会の承認決議がないまま連結子会社4社から計32億円を指定の銀行口座に振り込ませて損害を与えた特別背任罪の容疑で東京地検特捜部は井川を逮捕[6]。同年12月13日、2011年3月から9月に子会社3社に指示し、計23億3000万円を指定の銀行口座に振り込ませ、損害を与えた特別背任罪の容疑で井川を再逮捕[7]。同年12月22日に追起訴[8]

この事件で井川の借入総額が約165億円に達していることが判明し、刑事事件として起訴された金額は計約55億円となった。

2012年10月10日、東京地方裁判所は井川に対して懲役4年(求刑は懲役6年)の判決を言い渡した[9]。2013年2月28日、東京高等裁判所控訴を棄却[10]。同年6月26日、最高裁判所は被告の上告を棄却し、懲役4年の刑が確定[11]喜連川社会復帰促進センターに収容された。

井川意高の借入と返済

借入と返済の詳細は以下の通り[12]

2009年
  • 夏 数百万円借り入れ(正確な金額は不明)
2010年
  • 5月 5億5000万円借り入れ
  • 6月 9億5000万円借り入れ
  • 11月 5億5000万円借り入れ
2011年
  • 1月 11億円借り入れ
  • 2月 10億円借り入れ
  • 3月 5億円借り入れ
  • 4月 6億5000万円借り入れ・21億円返済
  • 6月 10億3000万円借り入れ・8億4300万円返済
  • 7月 22億5000万円借り入れ・12億5700万円返済
  • 8月 11億円借り入れ
  • 9月 10億5000万円借り入れ

脚注

  1. ^ 大王製紙事件 暴走許した監査機能の不備 読売新聞 2011年11月22日
  2. ^ 大王製紙事件 会社の私物化許されぬ 東京新聞 2011年11月23日
  3. ^ 【大王製紙事件】ブランドイメージ失墜、業績にダメージ 創業家支配からの決別急務 産経新聞 2011年11月22日
  4. ^ カジノ法案成立も… 106億円スった「大王製紙元会長」は“日本ではうまく行かない””. デイリー新潮 (2018年7月21日). 2023年10月28日閲覧。
  5. ^ a b 大王製紙:元会長、巨額借り入れ 特別背任で本格捜査へ--東京地検”. 毎日新聞 (2011年10月17日). 2011年10月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月27日閲覧。
  6. ^ 大王製紙前会長を逮捕 特別背任容疑で東京地検 共同通信 2011年11月22日
  7. ^ 大王製紙前会長を再逮捕 特別背任容疑で東京地検 共同通信 2011年12月23日
  8. ^ 立件総額55億3千万円に 大王製紙前会長を追起訴 共同通信 2011年12月22日
  9. ^ 前大王製紙会長に懲役4年の判決 巨額借り入れの特別背任 共同通信 2012年10月10日
  10. ^ 大王製紙元会長に二審も懲役4年 巨額背任事件 共同通信 2013年2月28日
  11. ^ 井川元大王製紙会長の実刑確定へ 巨額背任事件 共同通信 2013年6月27日
  12. ^ 「余剰金はいくらだ」 井川容疑者、子会社の限度額探る 産経新聞 2011年11月25日(2011年11月24日時点でのアーカイブ)

関連書籍

  • 井川意高「熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録」(双葉社)

関連項目

外部リンク

  • 調査報告書(大王製紙株式会社元会長への貸付金問題に関する特別調査委員会 PDF)

大王製紙事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 08:47 UTC 版)

有限責任監査法人トーマツ」の記事における「大王製紙事件」の解説

大王製紙創業家井川意高子会社巨額借り入れを行わせ、カジノ消費した事件において、適正意見出されていた繰延税金資産計上額・固定資産売却取引株式減損貸付金への引当金をめぐり過年度決算5年分が遡及修正された。当時会計監査実施していたトーマツ金融庁調査受けたが、処分戒告はなされなかった。大王製紙監査高松事務所松山事務所合同行われていたが、この事件を受け地方事務所再編強化等を行い会計監査人退任した2013年3月以降後任監査人あらた監査法人(現:PwCあらた有限責任監査法人)である。

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