定向進化説に対する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/09 01:40 UTC 版)
「定向進化説」の記事における「定向進化説に対する批判」の解説
マンモスの牙やオオツノシカの角について、彼らの絶滅が牙や角の過度の巨大化のためと説明される場合がある。一時的とは言え、現に彼らは地上に生存していたのであり、自然選択の立場からは、それらの表現型にも適応的な性質があったか、少なくとも自然選択によって取り除かれない中立的な性質を持っていなければならない。つまり、生存していた生物が非適応的形質を持っていたとすれば、自然選択説で説明するのは困難であり、定向進化説でこの現象を説明できるかもしれないと考えられた。 しかし、この説明には二つの問題がある。一つは非適応的な形質の存在が自然選択でも説明可能であること。もう一つは定向進化説を用いても説明になっていないことである。進化に方向性を持たせることが出来るなら、なぜ絶滅を回避できない生物がいるのか。環境の変化と進化の方向が合っていなかったとするなら、それはまさに自然選択の働きであり、ダーウィニズムでの説明よりも説得力があるとは言えなくなる。 ダーウィニズムによる一つの説明は、一見非適応的な性質も彼らが出現した時には役に立っていて、その後の環境変化によって非適応的になり絶滅したのだとする。もう一つの説明は、性淘汰説で、選択がその種を取り巻く自然環境によってではなく、種内の異性による選好によって起こったとする。 例えば、マンモスの牙は実用的でなかったかもしれないが、その先祖のまだ小さいが真っすぐに突き出た牙は、明らかに樹皮を剥いだり根を掘り起こしたり、あるいは種内、種間で戦う武器としても有効だったはずである。立派な牙をもった個体は自然選択で選択される。そうすると、繁殖を行う場合、相手の異性が立派な牙を持っている個体のほうが、多く子孫を残せただろう。 そのような条件下では、例えば雌が雄を選ぶ場合に、牙が立派なものを選ぶ傾向が生じても不思議ではない。そこで、そのような配偶者選択の傾向が遺伝的なものとして定着すれば、それ以後は実際の牙の機能より、異性に気に入られる牙をもつ個体が選択的に残るようになる。このような選択を性淘汰と言う。立派すぎて機能的には疑問のある牙の出現も、これによって説明することが可能な訳である。この場合、大きすぎる牙は、機能的には生存に不利に働くが、配偶者を獲得するためには有利に働くので、その両方の働きのバランスの取れるところに牙の大きさが落ち着くことが期待される。これも環境が変化し、性淘汰と生存可能性のバランスが取れなくなればその種は絶滅に向かうこともあるだろうと言える。 自然選択説は進化に方向性がありそうに見える理由も、実際には進化に方向性がないことの理由も説明が可能であるが、定向進化説は「進化が大局的にはそう見える」ことを述べているに過ぎず、その原因やメカニズムを説明しているわけではない。
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