安全装置のない銃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 09:19 UTC 版)
「トカレフTT-33」の記事における「安全装置のない銃」の解説
トカレフ拳銃最大の特徴は、暴発を防止する安全装置が省略されていることである。 多くの自動拳銃は通常、手動式の安全装置操作レバーを備える。手動安全装置を省略した事例も少なからず存在するが、それらは黎明期の試行的な製品を除けば、多くは撃発機構にダブルアクション機構を備え、一種の自動安全装置としての働きを持たせている。また、回転式拳銃の場合は、近代の製品の多くが安全性の高いダブルアクション機構装備であり、例外的なシングルアクション専用のものでも撃鉄を起こしたまま持ち歩く危険状態はほとんどあり得ないため、安全装置省略が許容されている。 トカレフ拳銃はそれらと異なり、安全装置が無ければ暴発リスクを伴う「シングルアクション方式の自動拳銃」でありながら、安全装置に類する装備の一切を省いていた。 TT-1930のベースになったコルト・ガバメントは、銃の側面にスイッチ状の「手動セーフティレバー」を、また、グリップ後面にはグリップを握っている時だけ発射を可能とする「グリップ・セーフティ」をそれぞれ装備し、開発当時としては相応の安全を期した。また、コルトの設計をコピーした欧米の多くの銃器メーカーは、構造が複雑になるグリップ・セーフティは省略しても、手動セーフティは必ず装備した。民生用として市販するには安全上必須であったからである。 しかし、トカレフは敢えて手動セーフティの省略にまで踏み切った。構造が単純になるので生産性が高まるメリットのほか、酷寒の季節に部品凍結などで発射不能になるリスクを少しでも減らす策でもあった。この設計は、訓練され、銃を暴発させないように扱える兵士などが使用する軍専用であることを前提としており、民生用としての安全性確保を考慮する必要がなかったことによる。ソ連陸軍も、このような簡略構造を許容していた。 トカレフ拳銃は、ハンマー・スプリングの力がシアを押さえつける方向に働くように設計されているため、落下などの衝撃が加わってもハンマーがリリースされにくい構造となっている。ただし、トリガーを軽くするために弱いハンマー・スプリングに交換する改造を行っている場合は、シアを押さえつける力が弱くなるため、落下などの衝撃でハンマーがリリースされやすくなる(暴発事故がおきやすくなる)。手動セーフティがないため、兵士がうっかりトリガーを引いてしまったり、ホルスターに戻すときなどに何かがトリガーに当たると暴発事故が起きてしまう可能性がある。トカレフ拳銃は暴発事故が多いと思われているが、それは構造上の欠点ではなく、持ち主のミスが原因である。大衆はトカレフ拳銃の構造を理解していないため、暴発事故がおきやすい拳銃というイメージが定着してしまったが、それでも当時の拳銃としては安全性の高い拳銃であった。 ちなみに、コルト・ガバメントは、トカレフ拳銃のようにシアがハンマー・スプリングの力で押さえつけられる構造となっていないため、落下などの衝撃でハンマーがリリースされやすいが、その欠点を補うために、グリップ・セーフティとハーフ・コックがある。銃が手から離れるとグリップ・セーフティがハンマーをロックする構造となっている。もし落下時の衝撃でグリップ・セーフティが動きハンマーがロックされていない状態になると同時にハンマーがリリースされても、ハーフ・コックでハンマーがシアに引っかかって止まるため、暴発事故がおきにくい。 ハンガリーやユーゴスラビアで生産されたトカレフ派生型拳銃には、後から手動セーフティやマガジンセーフティの追加が行われ、また、中国製トカレフについても、輸出型は手動セーフティ装備となっている。 トカレフ拳銃のポリシーは、その後のソ連軍兵器の多くに受け継がれた。ソ連製の小火器類は概して極度に単純化され、過酷な環境においても機能することを最優先とした構造を採るようになった。
※この「安全装置のない銃」の解説は、「トカレフTT-33」の解説の一部です。
「安全装置のない銃」を含む「トカレフTT-33」の記事については、「トカレフTT-33」の概要を参照ください。
- 安全装置のない銃のページへのリンク