化学の現代的定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/03 17:39 UTC 版)
20世紀以前には伝統的に、化学は物質の性質とその変化についての科学と定義されていた。そのような物質の劇的変化を対象としない物理学とは明確な一線が引かれていた。さらに物理学とは対照的に、化学は数学を多用しなかった。化学の領域で数学を使用することにはっきり後ろ向きの姿勢をみせる者さえいた。たとえば、オーギュスト・コントは1830年に次のように記している。 化学的疑問の研究に数学的手法を導入しようなど、まったくもって不合理であり化学の精神に反すると断ぜざるを得ない…、はたして数学的分析は化学の領域で主流の手法となるべきであろうか・・・、幸いながらほぼ不可能な心得違いというもの・・・、これはその種の科学で急速かつ広汎な質の劣化をひきおこすだろう。 しかし同じ19世紀でも後半には見方が変わり、アウグスト・ケクレは1867年に次のように記している。 私たちが原子と呼んでいるものの数理力学的説明に至り、その特質を記述する日が来ることを私は待望している。 アーネスト・ラザフォードとニールス・ボーアが1912年に原子構造を発見し、マリー・キュリーとピエール・キュリーが放射性物質を発見してのち、科学者は物質の性質に関する視点を劇的に変化させる必要に迫られた。化学者が獲得してきた経験は、もはや物質の性質全体の研究とは関連を失い、原子核を取り巻く電子雲と、電子雲の誘導で発生する電場における原子核の振舞だけが研究対象となった(ボルン-オッペンハイマー近似を参照)。化学の守備範囲は常温常圧に近い条件下でわれわれを取り巻く物質の性質に限定され、電磁波への曝露は地上における自然条件下のマイクロ波、可視光、紫外線などとあまり変わらないものに限られた。化学はそこで、物質の構成・構造・特性・変化を扱う物質科学と再定義された[要出典]。しかし、ここで使われる物質の意味は原子と分子がつくる物質とはっきり関係付けられ、原子核内部の内容物、核反応、イオン化したプラズマ内の物質は対象としない。とはいえ人類の尺度からいえば化学の領域は依然広大であり、化学がすべてを包括するといってもあながち外れてはいない。
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