動物の適応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/17 05:33 UTC 版)
動物にとって、林冠層は食料が多い層である。生産量の集中する層であり、新芽や花、果実など、よく食物として利用される部分もここに集中する。 問題は、それらが地表からはるかに高いところにあることである。日本の樹木でも普通は20mかそれ以上に達するし、熱帯多雨林では50mを越えるものが普通である。水中では水の密度が生物体のそれとさほど変わらないから、水平にでも垂直にでも、水中を移動するのにさほどのエネルギーの消費を必要としない。しかし地上では空気の比重がはるかに小さいから、特殊な能力なしにはそのような移動ができない。高い樹上には、普通は幹を伝ってはい上がる必要がある。昆虫のように小型の動物にとっては樹皮が十分に凹凸に満ちた基盤であるから、地表を移動する能力があれば、そこそこには木登りができる。うっかり落ちても、空気の抵抗で大事には至るまい。しかし、脊椎動物程度の体格となれば、木登りにも困難が伴うし、落ちれば命にかかわる。 もう一つの問題が、それらが互いに連続した基盤の上にはないことである。樹木は、一部の例外を除けば根元から太い幹が伸び、途中で次第に枝分かれしつつ幹が細くなり、広く枝を広げ、隣の木とは枝で接する。林冠は細い枝が互いに触れ合うか触れ合わないかで接した姿をしている。そこを水平に移動するには、どこかで枝から枝、葉から葉へ飛び移る必要がある。これは昆虫程度の体格であっては難しいし、脊椎動物では細い枝先まで出ることが困難であり、飛び移るべき距離はより大きくなる。かといって、下に降りれば幹が太くなるにつれて互いの距離も広まる。地上に降りて移動し、新たに幹を上るのは簡単な方法ではあるが、大変なエネルギーの消費を伴う。動物が樹上生活を行うには、この問題を解決する必要があり、それは以下のような形で行われている。 身体の小型化 上下移動するにせよ、樹木間を移動するにせよ、体重が少ない方が楽である。 引っ掻ける、あるいは掴む能力の獲得 鋭い爪を持って、樹皮や枝にそれを引っ掻けて体を固定する、あるいは柔らかい掴む構造を発達させ、それで枝を把持する。前者は多くの昆虫やリス、キツツキなどが採用しており、後者はサルや鳥の指、クモザルやカメレオンの尾にその例が見られる。 跳躍・滑空の能力 幹から幹への移動を可能にすることである。枝先に登り、隣の樹木の枝まで跳躍する。サルやリスがこれを行うのは有名であるし、ハエトリグモやササグモなどもよく跳躍する。また、体に皮膜を発達させて滑空すれば、移動距離は飛躍的に伸びる。ムササビ・モモンガ・ヒヨケザル・トビトカゲ・トビヘビ・トビガエルなど、さまざまな仲間にその例がある。 飛行能力 羽ばたいて空中を移動する能力である。これがあれば、樹木間を移動するのはもちろん、林冠の上に出て自由に移動が可能である。鳥と昆虫、それにコウモリにこの能力がある。これらの能力の発達した動物は、必要とあれば大陸間を移動することすら可能であるが、林冠に生活するものの多くは、むしろ枝の間を渡り歩くのに利用していると見た方がよい。ワシやタカですら、樹上高くを飛んで上から見下ろすよりは、枝の間を跳びはね、たまに羽を広げて滑空し、枝の間をわたりながら獲物を探すものがある。
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