入れ子構造
★1a.入れ子構造の人間たち。
『続斉諧記』(梁・呉均)2「腹の中の恋人(陽羨鵞籠)」 旅で道連れになった男が、口の中から、酒食の入った盆・箱と若い女とを吐き出す。男が酔って眠ると、女は口の中から愛人である青年を吐き出す。青年はまた口の中から自分の恋人を吐き出す。しばらくして、青年が恋人を呑みこみ、女が青年を呑みこみ、男が女と食器類を呑みこんで、去って行く〔*類話である『西鶴諸国ばなし』巻2-4「残る物とて金の鍋」では構造が単純化されており、仙人が酒食と美女を吐き、美女が恋人の若衆を吐くが、若衆は何も吐き出さない〕。
『太平広記』巻386所引『玄怪録』 北周の時代(6世紀)。居延部落の長・勃都骨低の邸に、数十人の芸人が訪れた。彼らは、背の高い者が低い者を呑み込み、肥った者が痩せた者を呑み込み、互いを呑み合って2人だけが残る、という芸を見せた。次いで彼らは、呑み込んだ者を吐き出し始めた。吐き出された者がまた1人を吐き出し、次々に人を吐き出して、人数がもとにもどった。彼らは人間ではなく、その正体は数多くの皮袋だった。
★2.入れ子構造の女性器。
『女体消滅』(澁澤龍彦『唐草物語』) 中納言長谷雄は鬼から女を与えられ(*→〔百〕1の『長谷雄草子』)、80日目の夜に女の下紐を解いて朱門(=女性器)を見る。すると朱門の奥にまた朱門があり、稲荷の鳥居のごとく朱門がずらりと重なって、無限の入れ子構造になっていた。長谷雄は、自分の陽鋒(=男性器)で第1の朱門を突破しようと試みる。たちまち女体は消滅して水と化し、長谷雄は全身びしょぬれになった。
★3.入れ子構造の動物。
『異苑』77「狐の中から狐が出る」 男が1匹の狐を捕らえて腹を割くと、中からまた狐が1匹出てきた。その腹を割いたら、また狐が出た。その腹を割いて、ようやく臓物が出た。3匹の狐は不思議なことに、みな同じ大きさだった。
★4.入れ子構造の戯曲。
『呪はれた戯曲』(谷崎潤一郎) 作家が妻を山中に連れて行き、自作の戯曲を読み聞かせる。その内容は、「作家が妻を山中に連れて行き、自作の戯曲(『作家が妻を山中に連れて行き、自作の戯曲を読み聞かせ、その後、妻を谷底へ突き落として、事故死のように見せかける』という内容)を読み聞かせ、その後、戯曲どおりに妻を谷底へ突き落として事故死のように見せかける」というものである。作家は戯曲を読み聞かせた後、戯曲どおりに妻を谷底へ突き落として、事故死のように見せかける。
『神の書跡』(ボルヘス) 虜囚の「わたし」は、牢の床に砂が1粒落ちている夢を見る。夢を見るたびに砂は2粒、3粒と増えてゆき、やがて無数の砂粒で「わたし」は死にそうになる。目覚めても砂はある。誰かが「わたし」に、「汝は真に目覚めたのでなく、前の夢へと目覚めたのだ。その夢はまたもう1つの夢の中にある。無限に夢が重なるのだ」と告げる。
『三段式』(星新一『さまざまな迷路』) 宇宙を1人で航行する飛行士の退屈しのぎに、3段式の睡眠薬が開発された。刃物を持つ男たちに追われる夢を見て、ハッと目覚めると、戦場で敵軍に包囲されていた。しかしそれも夢で、そこから目覚めると、今度は大洪水が押し寄せて来る。それでもまだ夢の中であり、もう1度目覚めて、やっと現実の宇宙船内に戻れた。夢から目覚めること3度で、ようやく現実世界に帰還できるのだ。
『スマラ(夜の霊)』(ノディエ) 新妻リシディスとともに眠るロレンツォは、ギリシア時代の人物ルキウス(*→『黄金のろば』の主人公)になった夢を見る。そのルキウスは、馬に揺られつつ夢を見て、コリントス戦で死んだ友人ポレモンに出会う。ポレモンは、魔女メロエと夜の霊スマラに苦しめられる悪夢をルキウス(=ロレンツォ)に語る。うなされるロレンツォを、新妻リシディスが目覚めさせようと呼びかける。
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