信頼性と騙しの問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 08:19 UTC 版)
ダーウィン的科学の観点からは、言語様のコミュニケーションが自然下で進化してくる上で第一の障害となるのは機械論的なものではない。むしろ、記号―音もしくは他の知覚できる形式と、それに対する意味との恣意的な結びつけ―が信頼できない、間違っているであろうものだという事実こそが第一の障害である。諺にもある通り、「言うは易し」なのである。信頼度の問題は、ダーウィン、ミュラー、その他の初期の進化論者には認識されていなかった。 動物の音声によるシグナルは大抵の場合本質的に信頼できる。ネコがのどを鳴らすとき、シグナルはその猫の満足している状態を直接に表している。それを信じることができるのは、ネコが正直な傾向があるからではなく、ネコには偽ってその音を出すことが不可能だからである。霊長類の音声的な鳴き声はネコの鳴き声よりは操作可能かもしれないが、やはり同じ理由により信頼できる―というのはそれらが偽りがたいものだからである。霊長類の社会的知能は「マキャヴェリアン」―つまり、利己的で道徳的な良心の呵責にとらわれない。サルや類人猿はしばしば他のサルや類人猿を騙すが、同時に、敵に騙されないように常に用心している。逆説的だが、まさに霊長類の騙されまいとする用心こそが彼らにおいて言語的なものに連なる情報伝達の体系の進化を阻んでいる。ここで言語の発展が不可能になるのは、騙されないようにする最良の方法は直ちに証明できるものを除いてシグナルを無視することだからである。こういった用心をされると言葉は情報伝達の用をなさない。 言葉によって騙すことは容易である。言葉が嘘であったということがしばしば起これば、聞き手は言葉を無視することで対応しようとする。言語が働くためには話し手が一般的には誠実だと聞き手が信頼していなければならない。言語に特有の性質として「ずらされた指示」がある。これは現在知覚している状況とは違う話題を指示できるということを指している。この性質のために発話は直近の「今」「ここ」に縛られない。このため、言語は普通ではないレベルの信頼を前提とする。このため言語の起源の理論は、他の動物ができていないとみられるやり方でヒトは何故お互いに信頼するようになれたのかを説明しなければならない(シグナル理論を参照)。
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