代入演算子との混乱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/10 06:02 UTC 版)
C言語から直接または間接的に派生したプログラミング言語では、同値関係の関係演算子として、直感的な = ではなく == を用いる。一方、= を用いる言語としては Pascal、BASIC、Ada、Standard ML、Objective Caml、SQL、VHDL などがある。 C言語は広範囲に普及したため、後発のプログラミング言語における構文や仕様はC言語のそれを参考に定義されたものも多いが、そのうちの一つがこの == 演算子である。この独特の構文は、B言語開発の初期の段階で = を別の意味に割り当てたことに端を発する。ALGOLとFORTRANの流れを汲むB言語の設計者は、タイピングを減らしたいという要望から、頻繁に記述される更新・代入操作のためのコピー演算子として = を代用することを決定したのである (これは A = A + 1 のような、一見して「数学的には不成立」な式が許容されることを意味する)。代わりに、= が本来担う役割である等号として == が使われることとなった。C言語はこれらの演算子をそのまま引き継ぎ、以後 Java や C# をはじめとする多くの言語がこの構文を採用したのである。 これらのC言語ファミリーにおける = の用法はバグの温床になりうる。C言語にはブーリアン型がなく、if文やwhile文の条件式には真偽値に評価されうる任意の数値型の式を受け付ける(ゼロあるいはゼロ相当を偽、非ゼロを真とする)。またC言語における代入は文ではなく式であり値を持つ。そのため、プログラマーが if (x == y) の代わりに、if (x = y) とミスタイプしても構文的には合法となってしまうのである。C言語において、if (x == y) は大雑把に言えば「x と y が等しければ後続の文を実行せよ」を意味する。しかし、if (x = y) とミスタイプすると「x に y の値を割り当て、もし x の新しい値が0でなければ、後続の文を実行せよ」という意味になってしまう。たとえば、下記の例で if (x = y) と書いてしまうと、y が x に代入され両方とも2になり、更に x の値2は0ではないので、常に if 文のブロックが実行される。したがって、以下のコードは "x is 2 and y is 2" を出力する。 int x = 1;int y = 2;if (x = y) { /* yが0でなければ以下のコードは常に実行される */ printf("x is %d and y is %d\n", x, y);} 他の言語やコンパイラの中には、このようなミスを事前に防ぐように工夫されているものもある。 同じ演算子を持つ Java や C# も同様の問題を孕んでいるが、これらの言語ではこの種の誤りは、ほとんどの場合コンパイルエラーとして検出できる。if文やwhile文などの条件式はブーリアン型に制約され、またほかの型(例えば整数型)からブーリアン型に暗黙的に変換されることもないからである(ただしJavaのjava.lang.Booleanはbooleanに暗黙変換される)。 gccなどのいくつかのコンパイラでは、if の条件式中に代入演算子を含んでいるコード(意図的に書かれることもある)をコンパイルするときに警告を出す。 Ada と Python においては、(if 節も含めて)式の途中に代入演算子は登場できないので、この種の誤りは排除できる。 同様に BASIC などのいくつかの言語では、文脈に応じて構文的に弁別できることから、代入と等式の両方に = 記号を使用する(BASIC系では代入は式ではなく文であり、Ada や Python と同様に、代入演算子は式中に出現することがない(そもそも代入演算子が無い、と表現したほうが正確))。 また、プログラマーの中には予防策として、定数に対する比較を記述するとき、以下のように直感とは逆の順でオペランドを記述する者もいる。このようにしておけば、誤って = と書くと 2 は左辺値ではないので、書いたコードは不正になる。コンパイラはこれに対してエラーメッセージを出すので、結果、適切な演算子に修正できるのである。このコーディングスタイルはヨーダ記法や left-hand comparison として知られている。ただしこの記法には、比較対象の少なくとも片方が左辺値を持たないような場合にしか使えない、多くの場合は重要な側の式が後から現れることになる、といった欠点がある。 if (2 == a) { /* 仮に = と == を誤用した場合はコンパイルエラーを引き起こす */ /* ... */}
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