乗算作用素
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数学の作用素論において、あるベクトル函数空間上で定義される線型作用素 T が乗算作用素(じょうざんさようそ、英: multiplication operator)であるとは、函数 φ におけるその作用素の値がある固定された別の函数 f との積で与えられることを言う。すなわち
がその函数空間内の任意の φ と、その φ の定義域内の任意の x について成立する(φ の定義域は f の定義域と一致する)。
このタイプの作用素はしばしば合成作用素と比較される。乗算作用素は、対角行列によって与えられる作用素の概念を一般化するものである。より正確に、作用素論における主要な結果の一つであるスペクトル定理では、ヒルベルト空間上のすべての自己共役作用素は、L2 空間上の乗算作用素とユニタリ同値であることが示されている。
例
区間 [−1, 3] 上の複素数値自乗可積分函数からなるヒルベルト空間 X=L2[−1, 3] を考える。次の作用素を定義する。
ここで φ は X 内の任意の函数である。これは自己共役な有界線型作用素で、その作用素ノルムは 9 である。そのスペクトルは区間 [0, 9] となる(これは [−1, 3] 上で定義される函数 x→ x2 の値域に等しい)。実際、任意の複素数 λ に対して、作用素 T-λ は
で与えられ、これが可逆であるための必要十分条件は λ が [0, 9] 内に含まれることである。そしてそのような逆写像は
で与えられ、これもまた別の乗算作用素となる。
以上の議論は、任意の Lp 空間上の乗算作用素のノルムとスペクトルを特徴付ける上で容易に一般化することが出来る。
関連項目
- 平行移動: 平行移動作用素
- シフト作用素
- スペクトル分解 (関数解析学)
乗算作用素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/06 08:28 UTC 版)
「スペクトル分解 (関数解析学)」の記事における「乗算作用素」の解説
ある σ-有限測度空間 (S, Σ, μ) が与えられたとき、バナッハ空間Lp(μ)を考える。ある関数 h: S → C が本質的に有界であるとは、h が μ に関してほとんど至る所で有界であることを言う。本質的に有界な h は、Lp(μ) 上の次の有界な乗算作用素 Th を導く: ( T h f ) ( s ) = h ( s ) ⋅ f ( s ) . {\displaystyle (T_{h}f)(s)=h(s)\cdot f(s).} T の作用素ノルムは h の本質的上限である。h の本質的値域は、次の方法で定義される:ある複素数 λ が h の本質的値域に含まれるとは、すべての ε > 0 に対して開球 Bε(λ) の h の下での原像が、厳密に正の測度を持つときを言う。はじめに σ(Th) が h の本質的値域に一致することを示し、その後その様々な部分について調べる。 λ が h の本質的値域に含まれないなら、h−1(Bε(λ)) が測度ゼロを持つように ε > 0 を選ぶことが出来る。このとき函数 g(s) = 1/(h(s) − λ) はほとんど至る所で 1/ε によって評価されている。このとき乗算作用素 Tg は Tg · Th − λ = Th − λ · Tg = I を満たす。したがって、λ は Th のスペクトルには含まれない。一方、λ が h の本質的値域に含まれるなら、集合の列 {Sn = h−1(B1/n(λ))} を考える。この各 Sn は正の測度を持つ。fn を Sn の特性函数とすれば、直接的な計算により ‖ ( T h − λ ) f n ‖ p p = ‖ ( h − λ ) f n ‖ p p = ∫ S n | h − λ | p d μ ≤ 1 n p μ ( S n ) = 1 n p ‖ f n ‖ p p {\displaystyle \|(T_{h}-\lambda )f_{n}\|_{p}^{p}=\|(h-\lambda )f_{n}\|_{p}^{p}=\int _{S_{n}}|h-\lambda \;|^{p}d\mu \leq {\frac {1}{n^{p}}}\;\mu (S_{n})={\frac {1}{n^{p}}}\|f_{n}\|_{p}^{p}} が得られる。このことから、Th − λ は下に有界ではなく、したがって可逆でないことが分かる。 λ を μ( h−1({λ})) > 0 が成立するようなものとするなら、λ は Th の点スペクトルに含まれる。すなわち、その本質的値域から λ だけを含むようなある開球 Bε(λ) を選ぶことが出来る。f を h−1(Bε(λ)) の特性函数とすると、 ∀ s ∈ S , ( T h f ) ( s ) = λ f ( s ) {\displaystyle \forall s\in S,\;(T_{h}f)(s)=\lambda f(s)} が成立する。正の測度の原像を持たないような h の本質的値域に含まれる任意の λ は、Th の連続スペクトルに含まれる。このことを示すことは、Th − λ がそのような全ての λ に対して稠密な値域を持つことを示すことに等しい。与えられた f ∈ Lp(μ) に対して、再び集合の列 {Sn = h−1(B1/n(λ))} を考える。gn を S − Sn の特性函数とする。次を定義する。 f n ( s ) = 1 h ( s ) − λ ⋅ g n ( s ) ⋅ f ( s ) . {\displaystyle f_{n}(s)={\frac {1}{h(s)-\lambda }}\cdot g_{n}(s)\cdot f(s).} 直接的な計算により fn ∈ Lp(μ) が分かり、優収束定理から、 ( T h − λ ) f n → f {\displaystyle (T_{h}-\lambda )f_{n}\rightarrow f} が Lp(μ) ノルムにおいて成立することが分かる。 したがって、乗算作用素は剰余スペクトルを持たない。特に、スペクトル定理より、ヒルベルト空間上の正規作用素は剰余スペクトルを持たないことが分かる。
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