ラグランジュの方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 04:19 UTC 版)
ジョゼフ=ルイ・ラグランジュは、既に知られていた三次方程式や四次方程式の解法を、いろいろな視点から詳しく調べ上げた。ここで述べるのは、ラグランジュによるフェラーリの方法の解釈であり、現代的に言えば対称群を用いた方法である。 フェラーリの方法において、四次方程式は y4 + p y2 + q y + r = 0 の形に変形される。この方程式の 4 つの解を r0, r1, r2, r3 とする。三次分解式を解くことで四次方程式は、 2 つの二次方程式 y 2 + p + u 2 = ± u ( y − q 2 u ) {\displaystyle y^{2}+{\frac {p+u}{2}}=\pm {\sqrt {u}}\left(y-{\frac {q}{2u}}\right)} に分解することができた。 y 2 + p + u 2 = u ( y − q 2 u ) {\displaystyle y^{2}+{\frac {p+u}{2}}={\sqrt {u}}\left(y-{\frac {q}{2u}}\right)} は、元の四次方程式の 4 つの解のうちの 2 つを解とするが、これをとりあえず r0, r1 の 2 つとしたとき、 y 2 + p + u 2 = − u ( y − q 2 u ) {\displaystyle y^{2}+{\frac {p+u}{2}}=-{\sqrt {u}}\left(y-{\frac {q}{2u}}\right)} の解は r2, r3 となり、根と係数の関係から r 0 + r 1 = u {\displaystyle r_{0}+r_{1}={\sqrt {u}}} r 2 + r 3 = − u {\displaystyle r_{2}+r_{3}=-{\sqrt {u}}} したがって (r0 + r1) (r2 + r3) = − u 便宜上 y 2 + p + u 2 = u ( y − q 2 u ) {\displaystyle y^{2}+{\frac {p+u}{2}}={\sqrt {u}}\left(y-{\frac {q}{2u}}\right)} の解を r0, r1 としたが、解の並び方はいろいろ考えられる。 rm と rn を入れ替える互換を σm,n と書けば、例えば σ0,1 (r0 + r1) (r2 + r3) = (r0 + r1) (r2 + r3) σ0,2 (r0 + r1) (r2 + r3) = (r2 + r1) (r0 + r3) など、一般には異なる値を取ることになる。このように調べていくと 4 つの解の並び方は 4! = 24 通りあるが (r0 + r1) (r2 + r3) = − u の値は、最初の解の並べ方によって s0 = (r0 + r1) (r2 + r3) s1 = (r0 + r2) (r1 + r3) s2 = (r0 + r3) (r1 + r2) の 3 通りとなる。 例えば、互換 σ0,1 を作用させると、 σ0,1 s0 = s0 σ&0,1 s1 = s2 σ0,1 s2 = s1 となる。 一般に、互換 σm,n は s0, s1, s2 の並べ替えしかしないため s0, s1, s2 に関する基本対称式 s0 + s1 + s2 s0 s1 + s1 s2 + s2 s0 s0 s1 s2 は、互換 σm,n によって不変であり、 r0, r1, r2, r3 の基本対称式で書けることになる。 すなわち s0, s1, s2 の基本対称式は、最初に考えた四次方程式の係数 p, q, r で書ける。 以上のことから u = − (r0 + r1) (r2 + r3) は、根の並べ方によって 3 つの値 − s0, − s1, − s2 をとり、これらを解とする方程式 (u + s0) (u + s1) (u + s2) = 0 の左辺は u についての多項式として展開すると、その係数が p, q, r の多項式として書ける式である。この u に関する三次方程式こそ、フェラーリの方法で三次分解方程式として求められた方程式に他ならない。 このようにしてラグランジュは、四次方程式を解くための補助方程式である三次分解方程式の解が、元の四次方程式の解の多項式で書けることを発見し、補助方程式の次数が三次である理由を、根の置換という立場からはっきりと示した。 このような式は他にもあり t 0 = ( r 0 + r 1 ) − ( r 2 + r 3 ) {\displaystyle t_{0}=\left(r_{0}+r_{1}\right)-\left(r_{2}+r_{3}\right)} t 1 = ( r 0 + r 2 ) − ( r 1 + r 3 ) {\displaystyle t_{1}=\left(r_{0}+r_{2}\right)-\left(r_{1}+r_{3}\right)} t 2 = ( r 0 + r 3 ) − ( r 1 + r 2 ) {\displaystyle t_{2}=\left(r_{0}+r_{3}\right)-\left(r_{1}+r_{2}\right)} とすれば、 t 0 2 , t 1 2 , t 2 2 {\displaystyle {t_{0}}^{2},{t_{1}}^{2},{t_{2}}^{2}} を解とする三次方程式で四次方程式を解くこともできる。ラグランジュは補助方程式の解を用いて、問題の方程式の解の公式を表現するのとは逆に、補助方程式の解を、元の方程式の解の整式(あるいは一般に有理式)として書けることが代数的に解ける理由と考え、特に u = r 0 + i r 1 − r 2 − i r 3 {\displaystyle u=r_{0}+ir_{1}-r_{2}-ir_{3}} の形の式、さらに一般に、n次方程式であれば 1の原始n乗根 ζ n {\displaystyle \zeta _{n}} を用いて u = ∑ k = 0 n − 1 ζ n k r k = r 0 + ζ n r 1 + ζ n 2 r 2 + ⋯ + ζ n n − 2 r n − 2 + ζ n n − 1 r n − 1 {\displaystyle u=\sum _{k=0}^{n-1}{\zeta _{n}}^{k}r_{k}=r_{0}+\zeta _{n}r_{1}+{\zeta _{n}}^{2}r_{2}+\cdots +{\zeta _{n}}^{n-2}r_{n-2}+{\zeta _{n}}^{n-1}r_{n-1}} の形の式の性質を詳しく調べたが、五次以上の代数方程式の代数的解法の発見には至らなかった。この形の式をラグランジュの分解式 (Lagrange resolvent) という。五次以上の代数方程式の代数的解法の存在については、パオロ・ルフィニ、オーギュスタン=ルイ・コーシー、ニールス・アーベルらの研究がアーベル-ルフィニの定理として結実し、否定されることになるが、彼らの研究は、このようなラグランジュの研究を源流としている。
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ラグランジュの方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 06:39 UTC 版)
ラグランジュは、三次方程式や四次方程式の代数的解法を分析し、根の置換という代数方程式論の方向性を決定づける重要な概念に到達した。この研究はガロア理論の発見へと繋がっていった。 x3 + A2 x2 + A1 x + A0 = 0 の 3 つの解を r0, r1, r2 とし 1 の虚立方根の一つ ω = − 1 + i 3 2 {\displaystyle \omega ={-1+i{\sqrt {3}} \over 2}} を取る。 s0 = r0 + r1 + r2 s1 = r0 + ω r1 + ω2 r2 s2 = r0 + ω2 r1 + ω r2 とおくと r 0 = s 0 + s 1 + s 2 3 {\displaystyle r_{0}={s_{0}+s_{1}+s_{2} \over 3}} r 1 = s 0 + ω 2 s 1 + ω s 2 3 {\displaystyle r_{1}={s_{0}+\omega ^{2}s_{1}+\omega s_{2} \over 3}} r 2 = s 0 + ω s 1 + ω 2 s 2 3 {\displaystyle r_{2}={s_{0}+\omega s_{1}+\omega ^{2}s_{2} \over 3}} である。根と係数の関係により s0 = −A2 であることが分かるので s1 と s2 の二つが分かれば解が求まることになる。ここで rm と rn を入れ替える互換を σm,n と書けば (σ0,1 s1) = r1 + ω r0 + ω2 r2 ω2 (σ0,1 s1) = r0 + ω2 r1 + ω r2 = s2 が得られる。両辺を三乗することにより σ0,1 s13 = s23 同様に σ0,1 s23 = s13 σ0,2 σ1,2 も計算してみれば分かる通り、これらの互換は s13 と s23 の入れ替えしかない。つまり s13 + s23 と s13 s23 は r0, r1, r2 の対称式であり、それらの基本対称式で表される。すなわち s13 と s23 を解とする二次方程式 (z − s13)(z − s23) = z2 −(s13 + s23) z + s13 s23 = 0 の係数は、元の三次方程式の係数 A2, A1, A0 で表されることになる。実際にこれは z 2 − ( − 2 A 2 3 + 9 A 1 A 2 − 27 A 0 ) z + ( A 2 2 − 3 A 1 ) 3 = 0 {\displaystyle z^{2}-\left(-2{A_{2}}^{3}+9A_{1}A_{2}-27A_{0}\right)z+\left({A_{2}}^{2}-3A_{1}\right)^{3}=0} という二次方程式になり、この解は解の様子を調べた時に定義した記号 ⊿ と ⊿2 によって Δ 2 ± 3 − 3 Δ 2 {\displaystyle {\frac {\Delta _{2}\pm 3{\sqrt {-3\Delta }}}{2}}} と書くことができる。 この根号は二次方程式の解の差積 ± ( s 1 3 − s 2 3 ) {\displaystyle \pm \left({s_{1}}^{3}-{s_{2}}^{3}\right)} として得られ、ここに現れる s 1 3 , s 2 3 {\displaystyle {s_{1}}^{3},{s_{2}}^{3}} も、3乗根は元の方程式の根 r 1 , r 2 , r 3 {\displaystyle r_{1},r_{2},r_{3}} と 1の3乗根 ω {\displaystyle \omega } の四則演算で表されている。すなわち三次方程式を解く際に冪乗根を取って出てくる式は、元の方程式の解 r 1 , r 2 , r 3 {\displaystyle r_{1},r_{2},r_{3}} と1の冪乗根の有理式で表現できる。ジョゼフ=ルイ・ラグランジュやヴァンデルモンド(英語: Alexandre-Théophile Vandermonde)は、これこそ三次方程式が代数的に解ける理由であると考えた。
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