フランスでの基礎研究成果
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「ステンレス鋼の歴史」の記事における「フランスでの基礎研究成果」の解説
フランスのレオン・ギレ(フランス語版)は、1902年から1906年にかけて精力的に合金鋼の研究を進め、現代におけるステンレス鋼の基本3分類「フェライト系ステンレス鋼」「マルテンサイト系ステンレス鋼」「オーステナイト系ステンレス鋼」に属する組成を体系的に初めて報告した。フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系とはステンレス鋼を金属組織によって分類したもので、フェライト系がフェライト相を、マルテンサイト系がマルテンサイト相を、オーステナイト系がオーステナイト相を主な金属組織として持つ。 ギレはテルミット法で得られるクロムを用いて試料を作製し、クロム含有量を最大 32 % 程度まで、炭素含有量を最大 1 % 程度まで変えた23種類のクロム・鉄合金の研究成果を1904年と1905年に発表した。それらの試料の内、5種類の組成は、現在のマルテンサイト系およびフェライト系に分類されるステンレス鋼と共通している。ギレは、試料の熱処理、機械的性質、金属組織について解説し、それらの金属組織がマルテンサイトまたはフェイライトで構成されていることも特定した。その後1906年、ギレは現在のオーステナイト系に相当する試料の研究成果も発表し、その金属組織がオーステナイトであることも特定した。以下に、ギレが研究した試料の組成と、それらの組成に相当する現在の工業規格の鋼種を示す: レオン・ギレの試料の組成発表年組成 (%)近い組成が定められているAISI規格(英語版)のステンレス鋼種クロム量ニッケル量炭素量1904 13.60 - 0.142 マルテンサイト系 410 14.52 - 0.382 420 18.65 - 0.905 440C 22.06 - 0.210 フェライト系 442 1906 18.20 5.40 0.268 オーステナイト系 301 20.55 10.60 0.315 304 しかしながら、ギレは自身が作製した高クロム鋼の耐食性に気づくことはなかった。高クロム鋼がピクリン酸でエッチングできないことまでは認めていたが、耐食性について報告することはなかった。それでもなお、ステンレス鋼の基本3分類について冶金学観点から体系的な研究成果を最初に報告したギレの功績は特筆される。金属工学者のカール・ザッフェは、ステンレス鋼発明者の筆頭としてギレの名を挙げる。ハロルド・コブも、フェライト系、マルテンサイト系、およびオーステナイト系ステンレス鋼の最初の発見者にギレの名を挙げ、「ステンレス鋼を冶金学的・力学的観点から最初に詳しく調べた者」と評している。 ギレの試料は、1906年、後輩のアルバート・ポートヴァン(ドイツ語版)へ引き継がれた。追加の試料と共に、ポートヴァンは電気抵抗、せん断特性に及ぼす金属組織、添加元素、熱処理の影響を明らかにした。1909年にポートヴァンは研究成果をイギリスで発表し、1911年と1912年にはフランスと米国でも発表した。高クロム鋼の耐食性について、クロム含有量が多いほどエッチングしにくくなり、クロム含有量が多いほどエッチング溶液の温度と浸漬時間を増やす必要があることを指摘した。このように、ポートヴァンはエッチングしづらくなることには気づいたが、それらの試料が錆びない耐食性までも備えていることには気づかなかった。しかしながら、ポートヴァンの試料の一つにはクロム 17.38 %、炭素 0.12 % の組成からなるものがあり、これは現在のフェライト系標準鋼種である430系そのものであった。
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