データエラー問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 04:11 UTC 版)
2014年5月23日、フィナンシャル・タイムズの経済記者であるクリス・ジャイルズは、ピケティのデータの中で、特に「富の不平等が1970年代以降拡大している」という箇所に「説明できないエラー」を確認したと発表した。 ここ数週間のベストセラーリストを席巻しているピケティ教授の577ページからなる本は、土台となるデータに、彼の研究結果をゆがめることになる幾つかの誤りが含まれている。フィナンシャル・タイムズは、ピケティの集計表に誤りと説明のつかない入力内容を発見した。これは昨年名声を損ねることになったカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフによる公的債務と成長率に関する論文と似たような事例である。ピケティ教授の本で書かれている主要テーマは、富の不平等が「第一次世界大戦前の水準まで上昇する」ということである。今回の調査は、この主張の価値を低下させることになる。というのも、この調査で、ピケティ論文の参照元には、富の総量が増えた分の分け前は「少数の金持ちの手に渡る」という彼の主張を裏付ける証拠が、殆ど書かれていないことが分かったからである。 — フィナンシャル・タイムズ ピケティは自分の研究結果は正しいと反論し、そして、その後の研究でも「富の不平等が拡大している」という自分の結論は裏付けられている(ピケティはエマニュエル・サエズとガブリエル・ザックマン(ドイツ語版)による発表The Distribution of US Wealth, Capital Income and Returns since 1913を引いている)、実際問題として、アメリカ合衆国では、本に書いた以上の不平等の拡大が見られていると主張した。 フランス通信社のインタビューでは、フィナンシャル・タイムズの記事を「真実味の無い批判」と責め、同紙について、「馬鹿げたものだ。この時代に生きる全ての人が、巨大な財産が益々大きくなっている事に気付いているというのに」と述べている。 フィナンシャル・タイムズの告発は各紙で広く取り上げられた。幾つかの記事では、フィナンシャル・タイムズは事を大げさに述べていると報じた。例えば、フィナンシャル・タイムズの姉妹誌であるエコノミストは次のように書いている。 ジャイルズ氏の分析には心動かされるものがある。この先、ジャイルズ氏、ピケティ氏、あるいは他の誰かによる追加調査で、間違いがあったかどうか、どのようにしてこれを発表するに到ったのか、効果は何なのかをはっきりさせることを強く望む。ジャイルズ氏が提供した資料を見る限りでは、しかし、資料はフィナンシャル・タイムズによる主張の多くを支持しているようには思えないし、『21世紀の資本』における議論が間違いだと結論付けられるとも思えない。 — エコノミスト ピケティは1つ1つの反証をウェブサイト (PDF) で公開している。 日本語版の翻訳を担当している山形浩生は、フィナンシャル・タイムズの批判は、税務に基づくデータに最近だけは自主申告の家計サーベイデータを繋ぐという手法を使っており、種類の違うデータを繋ぐというやり方がそもそも問題で、家計サーベイのデータはみんな過少申告するのが通例であてにならない。このメインの批判が論破されてしまったので、このフィナンシャル・タイムズによる批判はほぼ総崩れで、もはや批判として紹介するにも値しない、と述べている。
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